本部

戦闘

少年が描いた優しさ

玲瓏

形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
能力者
2人 / 6~8人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/11/13 22:00
完成予定
2015/11/22 22:00

掲示板

オープニング


「ね、父さん。今日のハンバーグ、美味しかったね」
「……ああ」
「人参は、あまり美味しくなかったんだけど」
「……ああ」
 あの時から、父さんの身体に従魔が乗り移った。でも本当は、従魔もましてや愚神なんかも乗り移ってなんかはいない。ただ、僕の目には父さんがどちらにも移って仕方がなかったんだ。僕はね、とても悲しい。
 僕が話しかけてもいつも「……ああ」としか言わない。それじゃ、今日美味しかったハンバーグが可哀想じゃないか。安売りのスーパーで買ったお惣菜にだって心はある。多分、父さんよりも心はある。だから僕は父さんの分までごちそうさまって言ったよ。
 まあ、人参にはごめんねって言った。
「父さん、実はね僕、コンクールに出ようと思うんだ」
「そうか」
「子供、絵画コンクールって言うんだけどね。これで優勝したらすごいよ、市内で有名人になるし、学校でもすごく表彰されるし、景品だってもらえるんだ。美術館にも出ちゃうかも!」
 父さんは何も反応しないと思ってた。いつものように、無感動でロボットみたいに流されると思ってた。だけど、僕の予想は外れた。
「優勝、狙ってるのか」
 僕は父さんが初めて別の反応をしてくれた事がとてもうれしくて、そしてこっちを向いてくれた事がとても嬉しくて(父さんはいつも、俯いて目を合わせてくれないんだ)興奮して何度も首を振った。
「うん、うんうん! 優勝するよ!」
「無理だ」
 父さんはすぐに俯いた。僕は一瞬だけの夢を見たんだなって、すぐに思った。
「なんで……そんなこというの」
「その腕でどうやって絵なんか描くんだ」
 事故があって、僕の右腕はさよならした。時々チクって痛むんだ。ゲンシツウって言うんだって、お医者さんは言ってたけど。
 なんだか僕はムッとしてきた。父さんはいつも下向きなんだ。……僕は下向きな父さんが嫌いだった。まだ、無愛想な返事をしてくれてる父さんの方がマシだった。
「確かに利き腕じゃないけど……頑張るよ。学校の先生にも言ったよ。五年生の担任の、美術の先生。そしたら手伝ってくれるって!」
「優勝なんかできっこない。悲しいだけだ」
 頭に血が上るっていう感覚が、異常な程分かった気がする。
「そんな事ない! 父さんは大馬鹿だよ! 悲しい事いうから悲しくなるんじゃないか。僕は諦めないぞ!」
 怒ったら、なんかそのうち悲しくなってきた。僕は強がって、父さんの前で泣くのが恥ずかしくて外に飛び出した。ボロいアパートの階段の下で一人で泣いた。
 ひとしきり泣いたら、なんでか分からないけどやる気が出てきた。父さんに対しての反抗心……のようなもの。
「絶対優勝して父さんをギャフンと言わせてやろう。もしかしたら、父さんびっくりして泣いちゃうかもしれない。よし、がんばろう!」
 応募締め切りまで一ヶ月だった。この大会がある事に気づくのは少し遅かった。もう少し早く、街の駄菓子屋の張り紙に気づくんだった。早く描かなければいけないなら、泣いてる暇はないね。


 町内会発足の子供のための絵画コンクールは今年で二十回を迎える。対象年齢は六歳から十二歳までの子供で、初代に出ていた子供は既に成人しきっているのが時の流れを感じさせる。
「第二十回、子供のための絵画コンクール、いよいよ審査が始まります」
 コンクールは市立のホールを堂々と借り、リアルタイムで審査員が評価をして最終的な優勝作品を決める。全ての作品をホールでやるとなるとさすがに時間がかかるので、予選の期間がありそこで落とされればホールの舞台に絵が上がる事はない。大抵予選を通過しなかった子供はリアルタイム評価の場に訪れる事はない。
 櫛山(くしやま) 徹(とおる)は中間に位置する客席で開演を待っていた。
 彼は父親が絶望の世界に延々と住み着いている事に嫌悪感を抱き、自らが父親を照らす事によってその世界から救い出そうと作品を応募した。その結果、見事予選を通過したのだ。
 利き腕を失うという大きなデメリットを克服したのだ。
 審査が始まり、一つ目の作品が舞台の上に登場した。櫛山も息を呑む程の出来合いで、子供が作った作品にしては高度過ぎる。早速櫛山は不安に駆られ始めた。


 ようやく櫛山の作品が評価される順番になった。審査の中盤だったという事もあり会場内では退屈で寝ている客が複数人見える。櫛山は寝ている客に向けてべらぼうめと心で言いながら、審査員の反応を心待ちにしていた。
 まだかまだかと舞台上の様子を気にしているが、一向に作品が出てくる気配がなかった。櫛山は嫌な予感がした。
「少々お待ちください」アナウンスが告げる。その少々というのがどれくらいの時間を指しているのか分からなく、櫛山は待てずに立ち上がった。客席と客席を隔てる間の通路を通りながら、嫌な予感が的中しない事を願う気持ちで少年は司会役の所まで向かった。
「何か、あったんですか?」
「君は?」
「櫛山徹。次審査される絵描いたの、僕なんですが……」
 司会役は顔に翳りを生成しただけで何も答えなかった。
「僕も探します。どこに行けばいいですか?」
「だ、だめよ。危ないわ」
「危ない……?」
 絵を探す事の何が危ないのか。幼い思考にひっきりなしに襲いかかる悪魔の考えを振りほどいた。
 結果、それは虚しい努力であった。
「おい、なんだあれ!」
 一人の観客が真上を指した。櫛山だけでなく、案内人も観客も誰もが頭上を見た。
 それは本当に、鳥肌が一瞬で立つものだった。立った時の勢いで全ての毛が抜けるのではないかと思った。
 このホールの天井は斑模様ではない。更に言えばその斑模様がぞわぞわと動く訳がない。
 天井一面にスライムの大群が張り付いていた。
 女子の悲鳴の後、客席は一斉に騒々しくなった。誰もが立ち上がり、――先ほど寝ていたべらぼうまでが立ち上がり出口を目指した。同時に空から何百ものスライムが、大粒の雨のように降り注いだ。

「緊急ニュースです。只今、T市で行われているホール会場に従魔が大量に出現した事がわかりました。現場リポーターと繋ぎましょう」
 テレビにはホールから逃げ出てくる人々の姿が映っている。
 自分の息子がこの催しに参加している事を、徹の父親は知っていた。生中継に息子の姿は映っていない。まだ施設の中に取り残されているのだろう。
「――そうか」
 彼はテレビを消して畳の上で身体を仰向けに横たわらせた。
「もう終わりだ。もう……」

解説

 あなた達はオペレーターからの依頼で絵画コンクールで発生した事件の解決に向かう事になりました。

●目的
 従魔(スライム)大量発生の原因を探る。
 逃げ遅れた人々の救助。

●発生原因
 愚神による襲撃が原因です。
 愚神の名前は「イヴァーグ」で、側近のスライムを利用し従魔の変形、合体攻撃、防御等を行います。自分が倒されそうになった時、施設に取り残された一人櫛山 徹に憑依します。
 憑依された人間がイヴァーグが離れるまで意識を乗っ取られます。この状態でイヴァーグを倒す事もできますが、憑依先の人間も倒されてしまいます。
 憑依された人間の意志の強さによっては、イヴォーグが追い出される事もあります。

●櫛山 徹の家事情
 三年前、父親が起こした事故によって母親と兄を亡くしています。その事故が切っ掛けで右腕を失い、父親も自暴自棄の生活に。
 徹はエージェントから脱出を勧められても頑なに出ようとしません。自分の描いた絵をどうしても見つけたいのです。

●施設について
 三分の二がホールで構築されており、残りは玄関、放送室、トイレ、控室で構成されています。
 取り残された人々は大勢おり、様々な場所で救助を待機しています。

●エージェント向けの情報
 ・施設にて大量の従魔の存在を確認。
 ・まだ大勢の人が取り残されている。
 ・絵画コンクールが開いていた。
 また、あなた達はH.O.P.Eから派遣されてきたとありますが、元々コンクールに参加、観客として座っていたとしても問題ありません。

●従魔について
 火属性の攻撃が致命的なダメージになります。

●コンクールの行く先
 コンクールは従魔の襲撃によって今年は中止されます。その事を知り、櫛山徹は酷く悲しむでしょう。

●以下、他に施設内の調査で知る事ができる情報。(得るための方法は幾通りあるとする)
・櫛山徹がコンクールに応募した動機。
・櫛山家の過去の事故。
・取り残された人々のおおよその人数。

マスターより

 エージェントの皆様方、日々のお勤めお疲れ様です。
 イヴォーグが櫛山に憑依するとありますが、活躍によってはそれを防ぐ事ができます。もし憑依されてしまった場合意志を強めるためには彼の身内(父親)の声を聞かせるのが一番ですが、父親は既に無感情で息子の救出を諦めています。事情(愚神に憑依された事)を説明しても、そのまま息子ごとやれば良い……と。彼を変える事はできるのでしょうか。
 戦闘シナリオとはなっていますが、ほんのちょっぴり、とある家族の人情話にお付き合いしてみてはいかがでしょう。

参加受付中 プレイング締切日時 2015/11/13 22:00


参加にはSC1,000が必要です。

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