本部

日常

命の代償

一 一

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加人数
能力者
6人 / 4~10人
英雄
6人 / 0~10人
報酬
寸志
相談期間
7日
締切
2018/01/20 22:00
完成予定
2018/02/03 22:00

このシナリオは5日間納期が延長されています。

掲示板

オープニング

●体残迷道して己1人
「――ぐっ! くそ……」
 冷たい地面に、
 体から落ちて、
 また、転んだ。
「――がっ!? ……っ!」
 苛立ちが募り、
 脂汗が溢れて、
 また、転んだ。
「――うぐっ!! ……ちくしょう!!」
 立ち上がっても。
 前を見据えても。
 何度も、転んだ。
「――あ、」
 そして、
 今度は、
 頭から、
 落ちて、
「――おにーちゃん!!」
 拙い少女の声が、震え。
 視線を動かすと、横に。
 先日知り合った、顔が。
「――っ!!」
 とっさに身体を捻って、
 両手で地面に手をついて、
 衝撃を逃がし負傷を避けた。
「――なんでなんだよっ!!」
 氷の上に、人影は『1つ』。
 思い通りに動いた身体に、
 悔しさだけが、あふれた。

「…………」
「……お、おにーちゃ、ん…………」
 先ほどまでいた場所――スケートリンクから離れた青年は、無言。
 スケート靴を履いたまま、前傾ぎみに椅子に腰掛け、うなだれる。
 その隣には、転倒した青年を助けようと、『共鳴』した幼い少女。
「あ、の……、その……」
 少女の声は気弱に震え、
 少女の体は臆病に震え、
 少女の腕は恐怖に震え、
「……悪い」
「――ぇ」
「1人に、してくれ…………」
「――ぁ」
 青年の声は固く静かに、
 少女の顔を見ないまま、
 独りになる時間を望む。
「……くそ」
 家族も友も師も観客も。
 誰もいない空間の中は。
 青年の悪態が響くだけ。
「引退後は指導者を目指してたはずなのに、子どもに当たるなんて」
 両手で顔を覆い、
 前髪を握り潰し、
 深い悔恨に呻く。
「僕は、最低だ……っ!」
 ――首から下がる幻想蝶が、鈍く光った。

●落花枝に還らず、破鏡再び照らさず
「――あうっ!!」
 H.O.P.E.東京海上支部に入ってすぐ、1人の少女が転んだ。
「……いたた」
 涙目で起きあがり、少女は赤くはらした額をさする。
 少女の手のひらや膝は擦り傷だらけで、すでに何度も転倒したことが窺い知れる。
 すると、少女に影が落ちた。
「君、大丈夫?」
 潤んだ瞳が見上げた先に、人の良さそうな顔の職員――佐藤 信一(az0082)がいた。
「保護者の人は――」
「――おねがいっ!!」
「え?」
 膝を折って少女と目線をあわせた信一の心配そうな声は、途中で遮られる。
「おねがいをしたいの!!」
 泣きそうだった目から一転、
 年齢不相応に必死な表情で、
 少女は信一に強く懇願した。
「えとえと、これっ!!」
 呆気にとられる信一に気づかず、
 あたふたとポケットを探る少女。
 取り出したのは、1枚の500円玉。
「おにーちゃんをたすけて!!」
 舌足らずなのに早口な少女が、
 小さな依頼人だと気づくのに、
 信一は少しだけ時間を要した。

「落ち着いた?」
「…………う、……ん……」
 少女をロビーの椅子に座らせ、絆創膏で傷の応急処置をした信一。
 消え入るような声で返事をした少女は、しかし、
 落ち着いたというよりどこか落ち込んだ様子で、
 先ほどの早口が嘘のように、ゆっくりと頷いた。
「それで、詳しく話を聞かせ――」
「おにーちゃんがたいへんなのっ! あたしのせいでおにーちゃんがおこってて、でもあたしじゃどうにもできなくて、あたしじゃおにーちゃんをこまらせちゃうの!!」
「ちょっ!? ま、待って待って!」
 そして、依頼について聞こうとした信一だったが、
 再び言葉を待てないように話し始めた少女に怯む。
「焦らなくてもいいから、ゆっくり話して。ね?」
「――え、……ぁ……う、ん…………」
 信一が諭すように少女を撫でると、
 再び、喉に言葉が詰まったような、
 少女のゆっくりとした語りを聞く。
「……わかった、何とかしてみるよ」
 すべてを聞き終えた信一は、驚愕と苦渋が同居した表情の後、笑った。
「おねがいおにーちゃんをたすけて!!」
 すべてを言い終えた少女は、驚愕と安堵が同居した表情の後、泣いた。
 感情が高ぶった少女の声は、
 信一が何とかわかる速度で、
 悲痛な叫びを、上げていた。

●死して花実は咲かねども
「皆さんは『過感覚』、もしくは『オーバーセンス』という言葉に聞き覚えはありますか?」
 およそ1時間後。
 信一に声をかけられたエージェントたちは首を傾げる。
「知名度が低いので知らない方もいらっしゃるでしょうが、簡単に言うと『誓約で生じるとても珍しい症状群』、でしょうか」
 口を動かしつつ、信一は『過感覚』についてまとめた資料を配る。
「今回はその『過感覚』となった英雄の女の子からの依頼です」
「――わきゃっ!!」
 すると、1人の少女が信一の合図で会議室に入室し、何もない場所でつまずいた。
 驚くエージェントたちだが、信一が少女にすかさず手を貸す。
「この子が依頼人の――」
「アニミっていうの! おねがいをきいてほしいのっ!!」
 信一の紹介を遮り、ばっ! と頭を下げるアニミ。
 だが数人のエージェントは、アニミの登場シーンや早口に困惑を隠せない。
「これが、『過感覚』の典型的な症状です。詳しくは資料を確認してください」
 信一によれば、これでもまだ初期段階のレベルだという。
「アニミちゃんは数ヶ月前、この世界へきた直後に愚神の事件に遭遇。その場にいた一般男性と誓約を交わし、逃げることができました。その後、能力者ともども『過感覚』が発覚したのですが、その男性はフィギュアスケートの現役選手だったそうです」
 名前は咲樹 勇歩。
 24歳と若いが、競技選手としてはベテランといえる年齢だ。
「咲樹さんは自身の体力や技術に限界を感じ、今期の大会を最後に引退する予定だったそうです。が、先の事件により一般選手からは除外されました。競技の性質上、変化した身体能力・演技構成の再調整や選手のピーク年齢などを考慮すると、リンカースポーツへの転身も非常に厳しいでしょう」
 本人は明確に引退宣言をしていないが、
 信一は再起がほぼ不可能だと断言する。
「アニミちゃんによると咲樹さんは『過感覚』を抱えた状態で、無謀な練習をずっと続けているそうです。頭では理解していても、心が納得できないのでしょう。ずっと進んできた道の最後と決めた挑戦を、出場する権利ごと奪われたのですから、無理もありませんが」
 怪我や病気なら完全に諦めもついただろう。
 だが、不自由はあってもまだ体は動くのだ。
 勇歩が抱える葛藤は、察するにあまりある。
「そんな咲樹さんを助けたいと、アニミちゃんは1人でここまできました。僕は協力したいと思います」
 そういって、信一は1枚の硬貨を見せる。
 幼いアニミが用意できた、全財産だった。
「報酬まで用意してきたこの子を、無碍(むげ)にはできませんから」
「おねがいっ、おにーちゃんをたすけてなのっ!!」
 優しい笑みの信一と真剣なアニミに、エージェントたちの答えは――

解説

●目標
 勇歩の葛藤・アニミの憂いを解消
(2人の関係改善)

●登場
 咲樹 勇歩(えみき ゆうほ)…24歳。元は一般人のフィギュアスケート選手だったが、愚神の事件に巻き込まれてアニミと出会う。一緒に逃げて命は助かるも選手生命は絶たれ、『過感覚』が発覚。身体感覚のズレと同時にアニミに対しても苦悩を抱える。

 アニミ…6歳。肉体的にも精神的にも幼いバトルメディックの英雄。本来はとても明るくエネルギッシュな性格だが、勇歩の苦悩を負い目に感じており塞ぎ込む様子が多く見られる。『過感覚』により足がもつれて転ぶことが多く、無意識だと言葉が早口に。

●経緯
・勇歩
 2歳の頃からスケートを始め、10代の頃から世界大会にも出場する実力者
 選抜選手にはなるがメダルは届かず、国民からの注目度はやや低い
 世間へ公言していないが、家族や知人には現役引退の意志を説明済み
 将来は一般人選手のコーチとして後進の育成を考えていたが『過感覚』がネック
 リンカー選手としての経験がないためそちらへの指導もほぼ不可能
 アニミには命を守ってくれた感謝と選手生命を奪った非難を抱き、態度を決めかねる
 エージェント登録の意志はない
 誓約【悔いを残して死ねない】

・アニミ
 前の世界の記憶はなく、初対面から勇歩を心から信頼している
 実年齢は不明だが言動は外見通りに幼い
『過感覚』の発覚以降、勇歩から疎まれている空気を察する
 せめて勇歩をサポートしようと奮闘するも『過感覚』で失敗続き
 自分と勇歩の限界を悟りお小遣いを持ってH.O.P.E.へ依頼
 誓約【おにーちゃんをおてつだいするの!】

●過感覚(オーバーセンス)
 ごくまれに、誓約を交わした能力者と英雄の双方が訴える、原因不明の身体感覚の異常。治療法は確認されておらず、唯一「共鳴すること」で主な症状が消えるため、対処療法として推奨されている。
 ワールドガイド『その他のガジェット』にて参照可。

マスターより

 どうしようもない事情で、夢へのラストチャンスと将来の希望を失った青年との対話です。

 皆さんの中にも様々な事情を抱えてエージェントとなり、似たような壁を乗り越えて今を生きている方もいるでしょう。人生の大半を費やし、情熱を燃やして取り組んできた生き甲斐を不意に奪われた青年に、立ち直るきっかけを与えてあげてください。

 また、能力者と英雄における関係もぎくしゃくしている模様です。余裕があればそちらの方にも目を向けてみてください。ついでに、皆さんも英雄と改めて向き合う機会にしてはどうでしょうか?

 勇歩さんとアニミちゃんが、再び笑えますように。

関連NPC

  • 腕時計が繋ぐ誓約と絆
    佐藤 信一az0082
    人間|25才|男性|-

リプレイ公開中 納品日時 2018/02/03 19:18

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 臨床心理士
    鐘田 将太郎aa5148
    人間|28才|男性|生命
  • 苦難に寄り添い差し出す手
    aa5148hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • リンカー先生
    九重 翼aa5375
    獣人|18才|男性|回避
  • エージェント
    樹々中 葉子aa5375hero001
    英雄|23才|女性|ドレ

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