本部

戦闘

霧の刃を渡る

影絵 企我

形態
シリーズ(続編)
難易度
やや難しい
参加費
1,300
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/04/24 22:00
完成予定
2017/05/08 22:00

このシナリオは5日間納期が延長されています。

掲示板

オープニング

●記憶の形
「そういうことなんだよ。『エイブラハム・シェリング』とは、その人が言っていた通り、姉さんと誓約を結んだ英雄の、世を偲ぶ仮の姿なんだ」
 テーブルを挟んで澪河青藍に向かい合う、白衣を着た少女――仁科恭佳はぴんと人差し指を立てる。青藍は首を振りも頷きもせず、小さく顔を顰めるだけだ。兄も能力者な都合、昔から英雄という存在に触れてきた青藍はそれなりに英雄の境遇について詳しかった。愚神や従魔という世界の脅威と共に現れた異世界の戦士。彼らの記憶は殆ど欠落してしまう。僅かな、彼らのルーツのみを残して。
「今までわかってる英雄の研究成果から根本的に対立してるよね、その結論は。英雄が憶えている事は、自身の名前であり、自身の立場であり、所持品の名前であり……本当に根本的な記憶のはず。それを偽るなんて……」
 コーヒーのカップを傾け、恭佳はいつになく真面目な表情で青藍を見据える。気宇壮大にしてはた迷惑な計画を練っている悪戯貧乳娘の面影はなく、純粋に、天才と評されるに相応しい学者の顔をしていた。
「姉さん、よく考えてみなよ。記憶は別に過去の経験の集積じゃない。皆そんなもんだろうと思いがちだけど」
 青藍は黙り込む。そんな彼女の眼を見つめながら、恭佳は角砂糖を一つ取り、鉛筆でそれを削り始めた。
「記憶は、あくまで脳を駆け巡った電気信号の集積。喩えそれが空想……脳内で自己完結した信号であったとしてもね」
「……回りくどいけど、要するに偽るもクソも無いって、言いたいんでしょ」
「そう。御偉方は格好つけて『英雄が有しているのは魂などに直接刻み込まれた記憶とでも言うべきものである』なんて言ってるけどね、要するに英雄は『そうである自分』、もっと言えば、『そうでありたい自分』としてこの世界に来てるんだよ」
 恭佳の手の中で、無機質な立方体が、少しずつ丸みを帯びていく。
「人間は誰でも、自分であるように記憶をカスタマイズしてる。そしてそのパーツは、自分が経験してきた現実の出来事から引っ張ってくる。だって空想からパーツを引っ張ってきたら、みんなこいつは頭おかしいって言って遠ざかっちゃうからね。だから空想は、記憶としては基本的に定着しない」
「……でも、空想からパーツを引っ張ってきて記憶をカスタマイズする事は不可能じゃない」
 青藍は応える。恭佳はふっと口端で微笑んだ。その手は変わらず角砂糖彫刻を続けている。
「それを偽記憶という。空想を自分の記憶として魂に刻み込むとやらをすることは、不可能じゃないってわけだ」
「エイブさんがエイブラハム・シェリングであるのは……彼が『自分はエイブラハム・シェリングである』と自分に言い聞かせて、それを自分のアイデンティティとして強引に定着させてきたから……」
「そういう事。……まあ全部私の仮説だけどさ。単純に言い聞かせる程度じゃ、こっちに飛ばされたら素に戻るでしょ。でもそれじゃ済まなかった。現に彼は『エイブラハム・シェリング』としてこっちに来ている」
 恭佳は手を止めて溜め息をついた。
「そうでもしなきゃ耐えられなかったんだろうね。きっと」
 彼女は角砂糖を青藍の目の前に置く。臆病そうなハツカネズミが、青藍をじっと見上げていた。

●剣の刃を渡る
――情報を元に探査を行った結果、従魔の襲撃を予知することが出来ました。本日夜に『ミザリー』と仮称された従魔に非常によく似た個体が2体同時に出現します。いずれも、ケントゥリオ級下位と分類するに相応しい実力を持っているようです。気を付けてください。付近には件の愚神も潜んでいるようです。これを叩く事も不可能ではありませんが、この個体もケントゥリオ級中位相当の実力を有していると予想されます。ケントゥリオ級三体を同時に敵とする事は非常に危険ですので、注意して任務に当たってください。
 また、今回の予知はほぼ百パーセントの精度と言えますが、その代わり少しでも状況を転じてしまうと、それがきっかけで予知したはずの未来が変わってしまいます。……なので、前もっての避難誘導は行うことが出来ません。行った場合、従魔や愚神の襲撃地点もそれに応じて変わってしまうからです。ですので、避難誘導は襲撃を確認してからとなります。
 剣の刃を渡るような、非常に難しい依頼です。が、皆さんならばきっとやり遂げてくれると信じています――

 夜となり、人が増えつつある歓楽街。君達は通行人に紛れ、襲撃が起きるといわれる路地の側にて従魔を待ち構えていた。未来を変えずに準備を進められる限界が其処だったのだ。あと五分だ。
 持ち場についたエージェント達の中には、澪河青藍も混じっていた。参加したエージェントの中には彼女らの状態を不安視する者もいたが、愚神を討ち切ることが出来ず招いた現況を見過ごすわけにはいかないという彼女の真剣な思いを無碍にすることも出来ない。同じような思いを抱える者もいたからだ。結果、不調を起こしたら迷惑をかける前に撤退するという条件付きで、エージェント達は彼女を戦列に加わる事を許したのだった。

 一人のエージェントが、青藍の横顔を窺う。彼女は神妙な面持ちで、手の内に幻想蝶を握りしめて立っていた。本当に大丈夫なのか。そのエージェントは青藍に尋ねた。
「ええ、大丈夫です。皆さんに色々と言われて、私もちゃんと心の整理をつけてきましたから。考えるのは後です。今は目の前の敵を、エージェントとして倒します」
 彼女は微笑みそう言った。その表情は強い。だが、エージェントは心配だった。どうにも胸を針でつかれるような、厭な心地がする。

 何か、起こる。そんな気がした。

 しかしその予感を伝える前に、時は訪れた。マンホールの蓋が開き、“それ”は姿を現す。エージェント達は共鳴し、敵と対峙した。
 青藍もまたエイブラハムと共に並び、共鳴しようとする。だが、彼の眼は僅かに濁り、戦意も薄い。心が曇っているのだろう。
『……セーラ。私は一体何者なんだ。私は本当にエイブラハムなのか』
「その証を立てるために戦うんです。……私がサポートしますから。エイブさんが戦ってください。……そうすれば、貴方が何者なのか、見えてくるはずです」
『……』
 青藍は小さく微笑んだ。
「ミディアンハンターのくせに、怖いんですか? ……大丈夫です。貴方が何者だとしても、私の相棒には違いありませんから」
『……そうか』
 二人は共鳴する。夜のように黒い外套をエイブラハムは身に纏う。中折れ帽を目深に被ると、深紅の眼がアンタレスのように輝いた。
『ならば……私は戦う』
 エイブラハムは天津風を抜き放ち、エージェントの隣に並ぶ。この世に現れた、ミディアンハンターとして。





「さぁ……いい加減思い出してくれよ……俺だけ憶えてて、お前はすっからかんなんてのはふざけてるじゃねえか? なあおい……」

「ウォルター=ドルイット!」

解説

メイン:ミザリーⅢ型、Ⅳ型の討伐
サブ:付近の人々を鎮静、避難誘導する

従魔ミザリーⅢ型、Ⅳ型
ケントゥリオ級
ステータス
Ⅲ型 物防B、魔防B、生命C、その他D以下
Ⅳ型 物攻B、魔攻B、生命B、その他D以下
スキル
・恐怖
 おぞましい容姿から洩れるライヴスは、対面するものの心身を縛り付ける。この愚神との戦闘時、移動力とイニシアティブは-2される。
・吸血
 物理攻撃。ランダムに一体対象。命中した場合、与えたダメージ分生命力を増加させる。この攻撃は最終ダメージ値に+5される。
・呪いの悲鳴
 魔法攻撃。全体対象。回避不可。防御に失敗した場合、減退(2)を付与する。

unknown
―PL情報―
名称:夜霧
脅威度:ケントゥリオ級
スキル
白昼霧 全体。1Rの間命中したPCの視力を奪い取る。プレイングで回避可。
Warning!
 この愚神とエイブラハムが遭遇した場合、エイブラハムは意識混濁を起こして共鳴が維持できなくなり、実質戦闘不能になる。愚神を捜索する、あるいは両ミザリーの撃破で発生。
―PL情報ここまで―

フィールド
歓楽街
要するに夜の街であり、深夜に近いが人通りが多い。
・プリセンサーの予知した未来を確立させるために避難誘導などを行えずにいたため、このまま放置していては混乱が波及する。
・誤射の危険性がある為人々を避難させるまで銃火器の使用は控える事。
・裏路地に押し込めて戦うと周囲への混乱は最小限となるが接近戦が難しくなる。
・広い道路で戦うとポジショニングなどは楽だが周囲の混乱が著しい。

NPC
・澪河青藍
ステータスなどは前回参照。妹分の恭佳と共に、エイブラハムの正体を探し求める事を決意する。
・エイブラハム・シェリング
ミザリーとの戦いの中で徐々に異常を来し始めた青藍の英雄。

Tips
・夜霧は今回エージェントと戦闘する気は無い。煽りに来た。
・ミザリーはそれぞれ別の場所から出現する。対応のためには人手を分ける必要がある。

マスターより

今回のリプレイは多少アドリブが多くなる予定です。

いつもお世話になっております。影絵企我です。
シリーズも中間地点です。ちょっと今回のOPは青藍にスポットが当たっていますが、どうかご容赦ください。皆さんが英雄とは何者なのかとふと考える機会となったら幸いです。

今回のシナリオについてのアドバイスですが、とりあえずオーソドックスに難しくなっております。デクリオ級に毛が生えた程度のケントゥリオ級が二体ですが、舐めてかかったりはしないように。
あと、黒幕が皆さんに挨拶しに来ます。人殺しの化け物扱いして煽ってきます。その反応をプレイングに書いてくださると、こちらも安定して描写が出来る……かもです。

以上です。

関連NPC

  • 花咲く想い
    澪河 青藍az0063
    人間|19才|女性|回避適性

リプレイ公開中 納品日時 2017/04/30 22:44

参加者

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 生の形を守る者
    アリス・レッドクイーンaa3715hero001
    英雄|15才|女性|シャド
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 絶狂正義
    ユーガ・アストレアaa4363
    獣人|16才|女性|攻撃
  • カタストロフィリア
    カルカaa4363hero001
    英雄|22才|女性|カオ
  • エージェント
    天宮城 颯太aa4794
    人間|12才|?|命中
  • 短剣の調停を祓う者
    光縒aa4794hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ

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