本部

戦闘

涙落ち地染み込む

一 一

形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
能力者
4人 / 6~8人
英雄
4人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2016/07/15 12:00
完成予定
2016/07/24 12:00

掲示板

オープニング

●『光』を失った日
「……」
 沈黙が重くのしかかる。
 午前中にも関わらず、すべての光を拒絶するようにカーテンが窓を覆っており、室内は薄暗い。
 その中にいるのは、30歳前後の女性が一人。
 じっと、ただじっと、正座のまま置物がごとく、動かない。背筋は伸びているのに、目は虚ろ。その姿からは真面目できちっとした性格が見て取れるのに、吐き出す気配は無気力に染まっている。
 女性の焦点が合わない目に宿すのは、仏壇。
 中央に飾られた、小学校低学年程度の男の子の写真だった。
「……」
 優しい線香の匂いが女性の鼻腔をくすぐるも、それが彼女の反応を引き出すには至らず。変化のない無表情とは正反対に、底抜けに明るい写真の中の笑顔が、彼女の内に胎動する『ナニカ』を徐々に大きく膨らませていく。
『……かわいそうに』
 すると、無音が薄い暗闇が支配する空間に、別の声が生じた。
『子どもさんを、失ったんですね』
「……」
 丁寧で優し気な声音は女性のもの。部屋の主である無気力な女性の背後に現れたその人物は、彼女の心情をくみ取って声を沈ませる。
『差し支えなければ、お話をお伺いしても?』
「……はい」
 しばらくの無言の後、正座の女性は機械的に口を開いた。
 写真の男の子――女性の息子は、先日事故で他界した。友達とふざけ合いながら廊下を走り回り、通りすがった教師の注意を受けても聞かず、階段を踏み外して転倒。打ち所が悪く、そのまま息を引き取った。
 息子は元々活動的で、かなりやんちゃな気質があった。母親としてはそれに手を焼かされることも多かったが、反面どこまでも明るい息子の姿は彼女の生きる原動力として強く働いていた。
 出産後、すぐに夫を亡くしてしまい、一人で子どもを育てていた女性にとって、息子は正しく彼女の人生を照らす『太陽』だった。
『そう……』
 ぽつぽつとした母親の話を聞き終え、女性は悲しそうに声を絞り出す。
『それはさぞかし、悲しかったでしょう』
 母親の数歩後方にいた女性は、おもむろにその距離を縮める。
『悔しかったことでしょう』
 より近くなった女性の声が、母親の脳へと染み込んでいく。
『そして何より、憎かったことでしょう』
 同時に、母親の中で蠢いていた『ナニカ』が、急速に膨らんでいく。
『大切なものを不意に奪われる気持ち、私にもわかります。世界は、いつも唐突で、残酷で、理不尽ですね』
 母親の表情は変わらないが、頬に一筋の滴が流れ落ちる。
『しかし、悲しみに飲まれるだけではいけません。貴女には、するべきことがあるはずです』
 それでも動かない母親の肩に、ほっそりとした手が置かれる。
『抗いませんか? 私と。『理不尽』に』
 ゆっくりと、労わるように、寄り添うように、母親の背後の女性は語る。
「……はい」
 沈黙の末、母親は女性の提案に頷き、乗せられた手に己の手を重ねた。
『よく決めてくださいました』
 瞬間、女性の影が母親へと徐々に重なっていき、暗闇の中、静かに、二人は一人に成っていく。
 そして、一つとなった人影は立ち上がり、流した涙を床へ落とした。
「ともに、憎悪する『理不尽』に抗いましょう?」
 光を閉ざした空間でたたずむその人影は、哂(わら)う。
 母親の背後に現れてから、ずっと表情にそれを張り付けていた女性のように。
 人影は涙し、哂っていた。

●全国的に雨、ところにより敵
「プリセンサーが不審なライヴス反応を感知しました」
 その日、H.O.P.E.の会議室に集まった能力者たちの前で、職員の女性が資料を配りながら口を開いた。
「観測されたのは富山県K市の小学校です。住宅街から離れた位置にあり、今日は休日ですので校舎内の人は少ないですが、場所が場所ですので人的被害が生じる可能性は十分にあります」
 プリセンサーの予測によれば、ライヴス反応はより人の多い住宅街を無視して突っ切り、まっすぐ小学校に向かうらしい。現時点での目的は不明だが、よからぬことを考えているだろうことは想像に難くない。
「依頼内容は、このライヴス反応の正体と目的を確かめて、不穏な内容であれば阻止してください。現時点ではこれが従魔なのか、愚神なのか、ヴィランなのかは判別しておりません。従魔や愚神であれば討伐を、ヴィランであれば無力化を優先させてください。状況判断は皆さんにお任せします」
 パラパラと資料をめくる職員は、一度手を止めてあるページに視線を落とす。
「皆さんにはこれからすぐに現地へ向かっていただくことになりますが、注意点が一つ」
 職員が示したのは、現場付近の天気図だ。
「ライヴス反応が小学校に到着すると予測される時間帯に、かなり発達した大きな積乱雲が近づいてきています。今日は全国的に雨が予報されていますが、現地では特に強い雨雲が発生しているようですね。皆さんが現地で敵反応と接触するころには、すでに降り出している可能性が高いです。もし戦闘行為に移行するとなると、いささか不利に働くかもしれません」
 雨によって視界が制限される上、地面がぬかるみ足を取られる危険性が増す。実際にどれほどの強さと雨量になるかはわからないが、戦闘にも多少の影響が出るはずだ。
「また、具体的な敵の数もわかっておりません。プリセンサーからの報告では、デクリオ級上位と推定される強さの反応が一つあったそうですが、愚神や従魔であれば敵を引き連れている可能性もあります。用心してください」
 職員の説明が終わり、能力者たちは早々に会議室を後にした。
 窓の外には鈍く分厚い雲が広がり、今にも降り出しそうな様相を呈している。
 今日の天気は、やはり荒れそうだ。

解説

●目標
 観測されたライヴス反応との接触、および対処。

●登場(PL情報)
 息子を失った母親
 夫に先立たれたシングルマザー。唯一の生きる活力であった息子を失い、無気力状態となっていた。ひそかに、胸の内で現状を招いたすべてに憎悪の感情を抱いている。

 謎の女性
 母親の背後に突如として出現した女性。母親と『誓約』らしき言葉を交わすも、正体が英雄か愚神かは判明していない。見た目は20代前半で細身の女性。常に薄く笑みを浮かべており、口調は丁寧で優しげ。言動から『理不尽』を憎んでいる節がみられる。

 その他
 愚神であればデクリオ級上位に相当する力を保有し、ミーレス級従魔を従えている可能性がある。謎の女性が英雄であればヴィランとして扱い、無力化推奨。

●場所
 予測接触ポイントは小学校の運動場。住宅街から離れた場所にあり、小学校の周囲は木々や田畑などに囲まれている。運動場から校舎までの最短距離はおおよそ10スクエアで移動可。
 到着時、天候は豪雨となっており、地面は酷くぬかるみ水たまりも多数。また、大きな雨粒による横殴りの豪雨により視界が遮られ、通常命中判定にマイナス補正が加わる。

●状況
 休日の午後に母親が到着。母親はレインコートに身を包み、手には息子が使っていた30cm定規や体操服入れをぶら下げたランドセルを、息子の事故後に返却されたままの状態で抱えている。PCたちは母親に遅れること十数秒後に到着、接触する。
 初期位置は母親が運動場の中央で、PCたちはそこから10スクエアほど離れた位置。雨による視界不良こそあれ、運動場の中央なので隠れる場所等はない。
 校舎には事務員や教師、そして息子の友人たちがいる。既にH.O.P.E.から電話で避難指示が出されたが、まだ避難しきれていない。雨に紛れてはいるが、運動場から避難の様子はかろうじて見える。

マスターより

 梅雨時期らしい、ジメジメしたシナリオになります。
 母親は何を思い、息子を失った場所へ訪れたのか。母親の前に現れた女性は、果たして英雄なのか愚神なのか。そして、彼女たちの目的は一体何なのか。
 いずれにせよ、不穏な動きを見せている彼女たちとの戦闘は避けられません。小学校へと被害が広がる前に、迅速に討伐あるいは無力化しましょう。

参加受付中 プレイング締切日時 2016/07/15 12:00


参加にはSC1,000が必要です。

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