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日常

優しき英雄と、曖昧な僕の願い

有原明来

形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/12/22 07:30
完成予定
2015/12/31 07:30

掲示板

オープニング


 病院の窓からは、駅前に設置された大きなツリーが見えた。母は喜んでいた。最近病状が悪く、ベッドから動くことができずにいるのだ。少しでも慰めになるなら、それでよかった。
 帰りのバスは、そのツリーの横を通過していく。
「うちも出そうか」
 隣に座っていた藍が、突然言った。
「何を?」
「ツリーさ。お母様に聞いたよ、物置にあるんだろう?」
 遠い昔に、見たような記憶はある。まだ母の最初の入院の前、重い腰痛なのだと疑っていなかった頃だ。
 あれから、友樹の背は随分と伸びた。変化はゆっくりと訪れた。母は病院にいる時間が長くなり、父は医療費のために仕事を増やした。もう長いこと、誰も帰ることのない家に、一人で暮らしていたも同然だ。
 今更、それが辛いとは思えない。けれど、ツリーを出してしまえば、家族三人で笑い合っていた頃を、どうしたって思い出してしまう。
「しかし、あの大きさの物を置けるスペースはないねえ」
「……うちのはあんなに大きくないよ」
 そうなのか、と藍は驚いた顔をした。
 彼女は、そうは気付かせないくらいに、聡明だ。そして、友樹が悩む時、苦しむ時、藍はそっと苦痛の種から遠ざけるように背中を押す。
 出会ってからずっと、与えられてばかりいると、そう思う。


 藍の他に、友樹は英雄という存在を知らない。
 リンカーや英雄をテレビで見る機会は多いが、興味をもてる余裕がなかったのだ。まして、自分のもとに英雄が訪れるとは、それが美しい妙齢の女性だとは、夢にも思わなかった。
 小学校から、もうすぐ中学を卒業する今まで、友樹はずっと自分の衣食住にかかりきりだった。家族の意識と行動の中心は、ずっと母だ。父とは、病室にお見舞いで顔を合わせる時間のほうが長い。病院から、父は仕事先に戻り、友樹は一人きりの家に戻る。料理をつくり、掃除をし、洗濯をする。学校の友達は優しかったが、深い友情を築くことはできなかった。授業が終われば、すぐにスーパーのタイムセールに向かうクラスメートを、誰が放課後に野球に誘ってくれるだろう。
 友樹の毎日は、ただただ一生懸命で、綱渡りだった。家のなかはいつもきれいに、父さんと母さんが、いつ帰ってきてもいいように。
 手伝わせてくれないか、と藍が言いだしたのは、誓約を結んで一月ほどしてからだった。
 名前のとおり、長い藍色の髪をもつ英雄は、素晴らしい学習能力をもっていた。テレビと本とインターネットで、この世界の大体を理解し、すぐさま順応した。母にも父にも先生にも近所の人にも、物腰丁寧に柔らかく接し、信頼を得ている。
 でも、藍をかけがえのない存在と感じている一番は、能力者である友樹だった。
「愚神か」
 生駒山は大変だな、と軽く言いながら、藍はテレビのチャンネルをニュースから変えた。味醂の隠れた効能について解説するバラエティを見ながら、ほほうと相槌をうつ。
「世界はまだまだ知らないことが多いね。肉じゃがが完成する前に知りたかったな」
「いいよ。十分おいしいし」
 藍の料理の勝率は、まだ7割といったところだ。八宝菜が固形物だったり、カレーの具が梨だったりする。
 でもどんな料理でも、一人で食べるよりはずっとおいしい。ちょっとした、どんな会話も楽しかった。
「今夜は、お父様がお帰りになられるのだったな」
「うん。片付け、任せていい? 父さんが帰ってくるまでに、宿題したい」
「ああ。もちろん」
 ……そう言って離れて、後でドアの隙間からそっと窺うと、予想していた通りのものが見えた。
 ニュースは、愚神との戦いの経過を報せている。それを見る藍は、怖いくらいに張り詰めた顔をしていた。
 机に座ってノートを広げても、どうしても集中できない。
(藍は、戦いたいのかな)
 過去について、英雄はあまり覚えていないものらしい。藍も「戦争ばかりの場所だった気がする」と言っただけだ。藍みたいに優しい人がそんな場所で大丈夫だったの、と聞くと、藍は何か堪えるような顔で友樹を見た。それから少し笑って、
「私は、昔と少し変わったみたいだ」
 と言った。
「でも、変わってよかったのさ。変わることのできる己を知ったことが、今は何よりも尊い」
 言葉の意味は、よくわからない。でも、藍が何かを我慢していることは察していた。
 戦争がどういうものか、友樹は知らない。でも、もし藍が、戦争で培った自分の力を、使いたい、愚神との戦いに生かしたいと思っているのなら、
(……でも、戦う? 僕が、愚神と?)
 リンカーと従魔の戦いは、WNLの中継で知っている。怪我をすることも、怖い思いをすることもあるだろう。
 それに、優しい母に、余計な心配をかけることになる。もしストレスで、病状が悪化したら?
 父はどうする? 友樹が多忙になれば、父が帰る家の面倒は誰がみるのだ。
 周りに、どう思われるだろう? 4月になれば、友樹は少し遠い私立の高校に通う。顔見知りの一人もいない場所で、新しい友達を作る自信もあまりないのに、エージェントなんてどう思われるだろう。
 でも、これ以外に、あの優しい英雄に返せるものが何かあるだろうか。
 溜め息をついて机につっぷすと、肘の先が閉じたままのノートパソコンに当たった。
 ふと、思いついてそれを起動する。
 起動時間に、ネットが立ち上がるまでに、目当てのページを探すまでに、これしかない、という思いは固まった。
 HOPEのホームページ。相談はお気軽にこちらまで、と表示してあるメールフォームに、文字を打ち込む。


 数日後。
「あの、メールしました、三室友樹です」
 HOPEの受付。ロビーを行きかう人の多さにしり込みしながら、友樹はおずおずと受付に申し出た。
 首から下げたメモリーのなかに、藍はいない。HOPEに能力者だけで来てくれと呼ばれた、と嘘をついた。心苦しいが、今日の相談はどうしても、藍に聞かせるわかにはいかないのだ。
「はい、三室くんですね。こちらへどうぞ」
 オペレーターが案内してくれたのは、明るいカフェテリアだった。外から日の光がさしこみ、和やかな空気のなかで、職員や能力者・英雄たちが思い思いの時間を過ごしている。オペレーターは、あるテーブルに友樹を案内した。
「さ、皆さん来られましたよ! 三室くん、こちらは皆HOPEで活躍してるエージェントの方々です。聞きたいこと、なんでもどーんと相談しちゃってください! あ、ちなみに好きなもの何でも注文してくれて大丈夫ですからね!」
 友樹は、緊張しながら、しっかりと頭を下げた。
「三室、友樹です。ご相談にのっていただいて、ありがとうございます」

解説

【目的】
ある新人能力者が、先輩エージェントに相談したいことがあるそうです。
エージェントの道を勧めるか否か、どの方向に背中を押してもかまいません。
それぞれの言葉と考え方で、彼の悩みに答えてあげて下さい。

※以下は、相談者のメールの内容ほぼそのままで、PCにも事前に伝えられています。

【聞きたい内容】
①従魔や愚神と戦うのって、怖くない? 怪我はしたことある?
②エージェントや英雄って周りにどう思われる? 学校に通っている場合は特に聞きたい。
③相手と分かり合ったり信じ合ったりするのに、どれくらいかかった? 何かコツはある?
④うちの英雄が何か隠しているみたいんだけど、どうしたらいいと思う?

【対象情報】
能力者:三室友樹(みむろともき)
・15歳の中学3年生。
・両親との三人家族だが、実質一人暮らし。
・英雄とは唐突に出会った。ふと気配を感じて、いるなと思ったらいた、とのこと。
・誓約内容は『母が治るまで、自分の幸せは後回しにする』。
・引っ込み思案で、新しい人間関係をつくるのは苦手。
英雄:藍(あい)
・外見年齢20代後半、女性。藍色の長い髪をもつ美女。クラスはソフィスビショップ。
・冷静で落ち着いた、物腰丁寧な大人。
・学習力と適応力が素晴らしく、すぐにこの世界に順応した。
・友樹に必要な時に傍に誰かがいてくれる、という感覚を思い出させてくれた、大切な存在。
・元の世界は戦争が多く、軍師的な立場についていたらしい。

【PCも知らない、対象情報の捕捉】
元の世界での藍は、欲望のために手段を選ばず、他人を意に介さない傲慢な権力者でした。
強い自尊心を持っていましたが、友樹をメモリーから観察するうち、「辛い日常を淡々と懸命に生きる強さ」を理解し、今では他者を重んじるようになっています。
民衆を害する愚神を憎みつつ、友樹を危険に晒すことを躊躇い、また過去を知られたくない、と苦悩しています。

マスターより

閲覧ありがとうございます。有原明来と申します。
学生の皆様には、今後の進路、というものが切実に迫ってくる季節です。
エージェントの道を勧めてもよし、止めてもよし。褒めても叱っても諭してもいいので、迷える少年に道を示してあげてください。
ちなみに英雄が隣にいると、質問回答によっては英雄に壮大なデレをぶちかます可能性もあります。相談者はガンガン本音を聞こうとしてきますよ!
逆に、相談者に聞きたいことがあればなんなりと。あとHOPEが何でもいくらでもメニューから頼んでいいよと言い切ってますので、食べたい飲みたいメニューがあれば、HOPEが流石にそれはァ!と止めにこない程度で追記してくださいまし。

リプレイ公開中 納品日時 2015/12/29 22:47

参加者

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • エージェント
    アヤネ・カミナギaa0100
    人間|21才|?|攻撃
  • エージェント
    クリッサ・フィルスフィアaa0100hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • ヘルズ調理教官
    虎牙 紅代aa0216
    機械|20才|女性|攻撃
  • エージェント
    ニココ ツヴァイaa0216hero001
    英雄|12才|女性|ドレ
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
    人間|18才|男性|命中
  • 願い叶えし者
    ナハト・ロストハートaa0473hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ

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