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神月 第2フェーズ:リプレイ

PCイラスト
中里 健太
aa4076
PCイラスト
ハーメル
aa0958
PCイラスト
白瑛
aa3754
PCイラスト
十影夕
aa0890
PCイラスト
キース=ロロッカ
aa3593
PCイラスト
セレティア
aa1695
PCイラスト
国塚 深散
aa4139
PCイラスト
ヴァイオレット ケンドリック
aa0584
PCイラスト
沖 一真
aa3591
PCイラスト
ファリン
aa3137
PCイラスト
アガサ
aa3950
PCイラスト
不知火 轍
aa1641
PCイラスト
千良 侘助
aa3782
PCイラスト
六万 唐津
aa2368
PCイラスト
弥刀 一二三
aa1048
PCイラスト
テジュ・シングレット
aa3681
PCイラスト
五十嵐 七海
aa3694
PCイラスト
まいだ
aa0122
PCイラスト
迫間 央
aa1445
PCイラスト
皆月 若葉
aa0778
PCイラスト
瀬島 道輔
aa0321
PCイラスト
織部 文月
aa0354
PCイラスト
葛井 千桂
aa1076
PCイラスト
月鏡 由利菜
aa0873
PCイラスト
餅 望月
aa0843
PCイラスト
御門 鈴音
aa0175
PCイラスト
エクス
aa0965
PCイラスト
ツラナミ
aa1426
PCイラスト
月影 飛翔
aa0224
●《虚の刃》
 『随分小さくなられて』
 そう言えば、愚神商人はそう嗤った。
 神無月は下げた刃を見る。
 取り戻した力の刃は白く輝いて自分の血肉となった──もう、自分は『小さく』はない。
 自分は力ある刃、定めに従い巣を護る蜂。敵対する小さな虫共など一撃で撃破できるはずだった。
 けれども、その小さき者たちのせいで、結界を破りレガトゥス級愚神エレン・シュキガルを召還することに失敗した。
 神無月の中で渦巻く黒い何かが彼女を追い立てる。
 もうすでに己の名前も忘れたけれども、覚えていることがある。自分は忠実な刃。
 ──カオス・エクイタトゥスとしての役目を思いだせ。




●戦場を渡る蝶
 無数の【蝶】が戦場を舞う──。
 今回の戦いは愚神側の軍勢よりもH.O.P.E.側の方が数では不利だった。
 しかし、【蝶】たちの情報は小隊の連携を助け、また、H.O.P.E.の情報網を使った草薙 義人(aa1588)によって【蝶】との繋がりを持たないエージェントへも【蝶】の情報網は広げられていた。そのお陰で、エージェントたちはある程度のまとまった戦況を共有し動くことができた。

 各陣の情報をまとめていた【蝶】のエリメイア(aa1691)は眉根を寄せる。
「──左翼が薄い……」
 機動力の高い敵に対してこちらの対応が間に合わない。
「戦域データを送ったわ」
 固い声で情報を発したエリメイアへと、また次々に仲間たちからの連絡が入る。

「わらわら湧いてやがんな。っしゃ、ぶっとばすぜ!」
 エージェントたちの部隊の側面を突いて現れた騎馬隊。ボーンホースに騎乗したスケルトンたちに中里 健太(aa4076)がファストショットを打ち込む。ミーレス級従魔など簡単に撃破できるが、さすがに数が多い。
 戦場に立った少年は状況を見て自軍の不利に気付いた。
「此処から先には行かせないよ! 弾幕を張って敵部隊の足止めと機動力のあるボーンホースを優先排除を!」
 ハーメル(aa0958)の声で騎馬隊に気付いたエージェントたちが弾幕を張る。弱者を狙って馬上から武器を振っていたスケルトンたちは突然の攻撃にスピードを緩めた。
 そこへ、白鼬の耳と尻尾を生やした白瑛(aa3754)が走り抜ける。
「ふん。さっさと帰って欲しいんだけど」
 怒涛乱舞によって周囲の敵の体力をそぎ落とす。そのまま、素早くその場を離れると次の敵陣へ飛び込む。彼の攻撃によって体力を削り取られた騎兵たちを他のエージェント達が止めを刺していく。打ち合わせの無いその連携によって周囲の敵はどんどんと姿を消してゆく。

 騎馬隊の襲撃に、まだ経験の浅い者や後方支援を担うエージェントたちが何人も悲鳴を上げた。
 そんな中、金品を狙ってスケルトンたちと戦う【∞】たちの姿があった。しかし、狙っても狙っても従魔たちはその攻撃を受けると装備品もろとも消えてしまう。残念がる仲間を見ながら、十影夕(aa0890)が確実に止めを刺していく。
「ライフルが歌う、骨が砕ける、そのほうがずっと面白いよ」
 そこへ、砂塵を巻き上げてバイクが走り込んで来た。
「遅くなってしまいましたが……さあ皆さん、一気呵成に参りましょう!」
 仲間の運転するバイクに同乗した【王虎】のキース=ロロッカ(aa3593)が武器を構える。
「バイク部隊、複縦陣展開ッ! 敵を挟撃だッ!」
 【王虎】セレティア(aa1695)の声とともに、彼女を乗せる国塚 深散(aa4139)が騎馬隊と神無月を分断させるようにハンドルを切る。
 複数のバイク部隊の後からジープとバギーが続き、【王虎】たちはスピードを武器に鈍い文楽武者を翻弄し、まだ形を保っていた神無月本隊を乱した。砂漠を爆走するバイクやジープたちの爆音と砂煙は嫌でも注目を集め、同時に何体もの文楽武者たちが【王虎】へと攻撃目標を定めた。
 唸るような老人の声が響き、身体から刃が飛び出す。それは、バイクのタンクを貫き、何人かは用意したそれを捨てる。同時に爆音が鳴り、また文楽武者の何体かが身体から刃を噴き出した。
 ヴァイオレット ケンドリック(aa0584)は文楽武者の周りに味方が居ないタイミングを計って用意したスマートフォンを鳴らした。スマートフォンから流れる音によって、音に反応する武者たちはその身体から一度だけの刃を放つ。攻撃を空振りにさせると、【蝶】を使い苦戦を強いられている次の仲間の元へ走る。
 ジープに乗った沖 一真(aa3591)がブルームフレアで従魔を焼き尽くす。沖の狙った煙幕は効果が無いようだったが、ブルームフレアによって隊列を乱し、ダメージを与えることには成功していた。
「こちら【王虎】! 神無月軍の後方に回り込みました……!」
 バギーに乗った高山 浩司(aa2042)が【蝶】へと連絡する。
 だが、その時、集まった文楽武者の一撃がバギーの運転席に食い込む。慌ててバギーを放棄すると、バギーのライトが闇の中激しく光って次の瞬間に煙を上げた。
 転がり落ちた【王虎】ファリン(aa3137)を狙い、闇をものともせずに巨大な刀を浴びせかけた文楽武者の攻撃。それを庇った【王虎】アガサ(aa3950)の身体が砂地を滑る。
「アガサ様!」

「アガサさん!」
 刀を持った深散が砂漠を走る。
 それぞれ近接用の武器に持ち替え、体勢を整えた【王虎】たちは乱戦の砂漠を走る。

 【ダンボール】の井上 神楽(aa1545)と哇谷 伴(aa3724)たちは砂丘の陰に避難所を作り怪我人たちを運び込んでいた。仲間たちが次々に怪我人たちを運んでくる。
「愚神に多量の従魔……多少でもうちらが治して援護出来るとええどすが……」
 八坂 千佳沙(aa1548)は厳しい顔で神無月が居るであろう敵の本隊を見つめる。【王虎】の活躍により騎馬隊はだいぶ減ったようだが、文楽武者の大きな姿は以前見えるし、ボーンホースを失ったスケルトンの姿も目につく。
「ホカもですが、ムシはヤッカイですね……フえないようデキればイいですが……」
 味方にライトアイをかけて回っていた【ダンボール】のコージリア(aa1369)が、また新たな怪我人を担いで千佳沙たちの元へやって来た。【蝶】を利用することによって、戦場のあちこちからの怪我人の回収作業が容易になっていた。
「……あくまで僕らは回復と攻撃支援だ。迂闊に深追いしないように!」
 トキ クロエ(aa1114)がそう言った瞬間、【ダンボール】たちの背後に僅かな音がした。はっと、振り向く間もあらばこそ。
 白い骨の塊が砂丘へと叩き込まれた。
「こうワラワラいたら、爆弾落とした方が早いよな~! ……AGW爆弾無い?」
 間一髪でストレートブロウを放った【ダンボール】朱殷 真朱(aa1580)が汗を拭った。安全地帯であったはずの砂丘の周りにちらほらとスケルトンたちの姿が見える。砂地が足音を消したのだろう。
 戦力が不利だからこそ、自分たちの働きがより重要になる。【ダンボール】と回復したエージェントたちは怪我人を背に武器を構えた。

 塩湖周辺では【愉快】・【痛快】たちが神無月と共に前進してきた従魔たちと戦いを繰り広げていた。
 符綱 寒凪(aa2702)が指揮を執る【愉快】たちは全体のダメージをうまくコントロールしながら、数の差がある敵相手に粘り強く戦っていた。
「……しっかり、潰さないと、ね」
 スケルトンを潰しながら、【愉快】の不知火 轍(aa1641)は仲間に声をかけた。トリブヌス級愚神である神無月は強敵ではあるが、この大量の従魔を少しでも減らさなければ戦況は悪くなるばかりであるし、神無月自体の足止めを行う事すらできない。
「突っ込み過ぎないでくださいよっと」
 そんな轍に【愉快】の回復を担う千良 侘助(aa3782)は言葉を返す。
 対して【痛快】の六万 唐津(aa2368)たちは敵の撃破を担う。
「突っ込むぞ!!」
 だが、数によりじわじわと押されて行く……。
「畜生っ!」
 仲間への文楽武者の攻撃に気付いた唐津が走る。




●愚神刀『神無月』
 神無月は従魔たちに周囲を守らせ、門を目指した。
 闇の中、異形に守られて進む紅色の着物の少女たちの姿は、まるで百鬼夜行のような奇妙で不吉なものだった。

「放置したつもりは無かったんだが、私1人では役不足だったかな」
 フェリクス ハイデマン(aa3256)は神無月を目の前にほぞを噛んだ。
 神無月を目指したエージェントたちの中で、先行した者や戦力の伴わない者は、周りを守る従魔に阻まれて近付くことができないでいた。
 都築 幸道(aa2350)率いる【和の心】の中で神無月を挑発しようとした者たちは、その無防備な作戦から従魔に襲われて深い傷を負った。
「砂漠で納豆ってこれやべーだろ、てか持ってるのもキツいな」
 仲間うちで一番練度の低い主人公(aa4276)は戦場で納豆を混ぜる無防備な仲間たちを、無謀にも従魔から庇い、仲間と同じように倒れた。納豆ごと、狐布蟲に食まれた都築たちを従魔退治をしていた【和の心】の残りの仲間たちが辛うじて救い出し、【ダンボール】たちが回収して行った。

 そんな中、従魔を担当したエージェントたちが拓いた道を進む者たちがいた。
 今度こそトリブヌス級愚神の首級を目指す戦士たちだ。
 彼らは時に神無月と会話を試みながら一歩でも先へ神無月の元へと、試みる。
 
 神無月包囲網の右翼を担当した【LC】たちはぎりぎりと後退していく。
 左翼を担当した個人エージェントたちも、文楽武者に押されて前線を守り切れず下がっていく。

 一方、弥刀 一二三(aa1048)が率いる【義】たちは、やはりゆっくり後退しながらも、神無月や周囲を守る従魔たちを激しく攻撃していた。
「何で門に急いどるん? 話してくれへんか? ……て、聞いても通す気ないけどな!」
 文楽武者の強烈な攻撃を避けて前へ転がり出た一二三の漆黒の刀剣が神無月の足を払う。《虚の鎧》に阻まれたが、足を狙われた神無月が足を止めた。
「この祈り全身全霊でぶつけてやろう」
 その瞬間、文楽武者の陰に隠れていた【義】のテジュ・シングレット(aa3681)が猫騙を仕掛ける。一撃に反応した神無月の背後から五十嵐 七海(aa3694)を始めとした【義】たちの攻撃が足を狙って撃ち込んだ。
「……っ!?」
 《虚の鎧》を破るための連続した攻撃。
 そこへ、共鳴したまいだ(aa0122)がブラッドオペレートを使い、【義】の迫間 央(aa1445)が毒刃を重ねる。
 《虚の鎧》の解れ目から赤い血が流れ出て、神無月は顔を歪めた。即座に狐布蟲が一体、神無月の元へと舞い降り傷を癒して消えた。
 だが、その合間に【義】の皆月 若葉(aa0778)たちの攻撃の手によって神無月の周りの狐布蟲はどんどん消えてゆく。
 もう完全に神無月の歩みは止まっていた。
 同時に、神無月は【義】を始めとしたエージェントたちの狙いに気付く。
 ──小さく、群れる者らが、また…………。
「邪魔だ」
 神無月が動き、空に無数の刃が浮かぶ。《上天驟打》。痛みの雨がエージェントたちを嬲った。

 【LC】の瀬島 道輔(aa0321)は、咄嗟に連携をとっていた織部 文月(aa0354)の上にその身を投げ出した。
「ヨズくんっ!」
 小柄な自分の身体の上に倒れ込んだ瀬島を慌てて抱えるた文月は、その背の数多の刃の跡を見て悲鳴を上げた。
 【LC】の葛井 千桂(aa1076)は、自分の血で汚れた己の掌と神無月を交互に見た。何度も何度も仲間を補助し回復し続けた彼女は、もうすでに仲間を助ける術を持たなかった。
「──どんな思惑であれ、ここを通すわけにはいきません」
 気付いた【LC】の仲間たちが千佳を止めようと手を伸ばしたが、それを振り切って彼女は神無月の元へ走った。愚神に向かい振るった千佳の槍は容易く神無月を突いた。この愚神の注意を己に向けようと、彼女は仲間のためにできる最後の手段を選んだ。
 だが、神無月はその一撃をただそのまま受けた。《虚の鎧》に覆われた身体はうっすらと赤く染まったが、愚神は千佳に注意を払うことは無かった。
 それから、神無月の刃が千佳を振り払うように斜めに走った。
 ──赤い血が砂漠の砂を染める。
 それでも前へ進もうとした千佳の前に、金髪の姫騎士──月鏡 由利菜(aa0873)が剣を振り上げて滑り込んで来た。
「今は鶏鳴机が抑えます。皆さんは体勢を立て直してください」
 餅 望月(aa0843)が叫ぶと、神無月の注意を引くべく御門 鈴音(aa0175)が愚神の正面へと回る。
 由利菜を見た神無月がぴくりと表情を動かした。
「華さんの刀を返して貰います。……出でよ、亜異界を断つ宝剣ゴルディアシス!」
 由利菜の攻撃を、神無月が刀を振るって弾き返した。
「そのような刀など、もうない」
 叫んだ神無月の刀が由利菜の剣とぶつかり合う。攻撃により破壊された《虚の鎧》に由利菜のライヴスリッパーが繰り出されようとしたが、神無月の指示なのだろうか、残った狐布蟲が由利菜のライヴスを乱さんと纏わりついた。
 だが、由利菜だけではなく、他の何人ものエージェントによる神無月の刀を狙った攻撃が繰り返された。
 対して、《虚の鎧》を庇ってか、神無月は刃で攻撃を弾きいなし始め──最後に鈴音の力を溜めた連続攻撃を受けた刃は、音を立てて折れた。
 折れた刀は砂のうえで硝子のように砕けて消えた。残っていた狐布蟲が神無月の周囲をくるりと舞って消えた。
「よくも」
 ──小さな者よ。
 門を見ていた神無月の瞳がエージェントたちに向けられた。
 彼女を庇うように、数体の文楽武者がのそりとエージェントと神無月の間に立ちはだかる。その陰で、神無月の掌からまた新たな刀が生み出された。
 神無月の静かな動きが空間を抉る衝撃派を生み出した。《斬星截天》。一体の文楽武者と前方に居た多数のエージェントが吹き飛ばされ、砂漠へと叩きつけられた。
「そうは……させない!」
 神無月の後方に回っていた【義】のエクス(aa0965)が神無月の懐へと踏み込む。大剣が神無月の脇腹を刺した。《虚の鎧》に護られたそこは微かに血が滲んだ。代わりに、神無月の刃が、エクスへと差し込まれた。




●逃亡
 裂けた着物が砂と血に汚れるのも構わず、神無月は門へと向かった。《虚の鎧》が薄まった部分はどす黒い血がべったりと付き、そこが彼女の弱点であると示していた。側に侍る文楽武者たちも相手をしていたが、門に近づく頃にはそれはだいぶ少なくなっていた。
 抑えられない感情が神無月の中を駆け巡る。
 どうして。
 それは怒りと呼ばれるものだった。

 潜伏したツラナミ(aa1426)は神無月を狙ったエージェントたちの連携が崩れていくのを見た。
「めんどくせぇ……」
 通り過ぎた神無月の影が伸びるように──はっと振り返った神無月の目の前で、ツラナミのフェイントの一撃。
 惑わされた神無月へ、門の付近で待ち構えていたエージェントたちが攻撃を試みる。
「お前か」
 髪を乱し、ツラナミに怒りを浮かべた視線を投げた神無月の《虚の鎧》の効果が薄れた部分を狙って、月影 飛翔(aa0224) が疾風怒濤を叩き込む。
「門へは行かせない!」
 ──アルメイヤと接敵で何か起こったんだ、他の英雄との接触でも何か起きかねない。
 月影を含めたエージェントたちの予想外の抵抗に、神無月の顔が歪んだ。
 ──自分は、役目を果たす強き刃。なのに、なぜこのような羽虫たちに阻まれている? 自分はもう『小さい者』ではない。
「──っ、消えるがいい!!!」
 神無月の《斬星截天》によって、エージェントたちが吹き飛ばされ後退する。そんな彼女の背後から、また別なエージェントが《虚の鎧》の綻びを狙って一撃を放つ。赤くにじむ血にじわじわと痛みを感じて、愚神の少女は悲鳴を上げた。
「ふざけるな、ふざけるな!!」
 しかし、その場に居た少ないエージェントたちだけでは、まだこの少女を止めるだけの力は無かった。
 赤く裂けた着物の裾を振り乱し、神無月が刃を滑らせる。《上天驟打》──。

 神無月は荒い息遣いで、砂漠に沈んだエージェント達を見る。彼らは呻き、止めを刺すには至らなかった。
 けれども、この愚神にもその場のエージェントたちに止めを刺して回る余裕などなかった。
「──これは、一体どういうことですか。長。エレン・シュキガル様を解放できなかったばかりか、そのようなお姿で」
 不意にかけられた声に、神無月はぎらぎらとした黒い瞳を向けた。
 ──そこには驚いた顔をした戦士が立っていた。
「…………神無月」
「なんですか、それは」
「名前、だそうだ。ここでは愚神卿もそう呼んでおられる」
 コートを羽織った老人は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。
 神無月は倒れたエージェントたちを一瞥する。砂地に広がる赤い血に沈む彼らの傷は深そうだった。それを確認すると彼女はエージェントたちに背を向けて門へと近づいた。その中からはいくつもの雑面を被った獣の物の怪が現れて、神無月を包み、そして、消えて行った。狐布蟲のライヴスを吸って傷を癒した愚神の彼女はほうと息を吐く。
「つまらないことがたくさんあった。だが、お前たちと合流出来てよかった。──私は役目を果たさねば」
 エレン・シュキガルの力が満ちた門で、神無月はこの世界に来た際に失っていた記憶を思い出した。
「ええ、エレン・シュキガル様のために。法の光を、我ら処刑人としての役目を」
 神無月の手によって迎えられた老人は言った。
「そうだ、せめて、こちらに落ちたカオティックブレイドたちを始末しなくては」
 老人が声を上げる。
「元はらからたちを」
 ──そんな彼らの姿を会話を、砂漠に倒れた幾人かのエージェントたちはしっかりと記憶した。

 砂漠を振り返った神無月の瞳に、だいぶ少なくなった従魔たちの姿がまばらに映る。
 数の減ったあれらではもうエージェントたちに対抗はできないだろう。
 無意識に癒えた傷を撫でた指先が爪を立てる。もう痛みは感じないはずだった。なのに。
「──私は、『小さき者』ではない」
 愚神の少女は、その赤く小さな唇をぎりっと噛みしめた。

担当:
監修:
御神楽
文責:
クラウドゲームス株式会社