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神月 第1フェーズ:リプレイ

PCイラスト
片桐・良咲
aa1000
PCイラスト
ポプケ エトゥピリカ
aa1126
PCイラスト
郷矢 鈴
aa0162
PCイラスト
宇津木 明珠
aa0086
PCイラスト
バルタサール・デル・レイ
aa4199
PCイラスト
赤嶺 謡
aa4187
PCイラスト
狼谷・優牙
aa0131
PCイラスト
紺野 あずき
aa3833
PCイラスト
大佐田 一斗
aa3772
PCイラスト
大佐田 みどり
aa3941
PCイラスト
佐藤 鷹輔
aa4173
PCイラスト
新座 ミサト
aa3710
PCイラスト
獅子ヶ谷 七海
aa1568
PCイラスト
振澤 望華
aa3689
PCイラスト
木陰 黎夜
aa0061
PCイラスト
鬼灯・明
aa0028
PCイラスト
木霊・C・リュカ
aa0068
PCイラスト
紫 征四郎
aa0076
PCイラスト
葛原 武継
aa0008
PCイラスト
紅葉 楓
aa0027
PCイラスト
廿枝 詩
aa0299
PCイラスト
旧 式
aa0545
PCイラスト
唐沢 九繰
aa1379
PCイラスト
九字原 昂
aa0919
PCイラスト
榛名 縁
aa1575
PCイラスト
笹山平介
aa0342
PCイラスト
今宮 真琴
aa0573
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齶田 米衛門
aa1482
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小鉄
aa0213
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秋津 隼人
aa0034
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佐倉 樹
aa0340
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御代 つくし
aa0657
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クレア・マクミラン
aa1631
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真壁 久朗
aa0032
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レイ
aa0632
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赤城 龍哉
aa0090
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リィェン・ユー
aa0208
●闇に瞬く
 重苦しい暗闇が夜の砂漠に覆い被さっていた。
 日中は陽光を白く照り返す砂丘が日没と共にまるで違う顔を見せる。遠く地平線まで続く漆黒の起伏は黒い海の如く片桐・良咲(aa1000)の眼前に広がり、一歩でも踏み出せば闇の中に溺れ、冥府の底まで沈み落ちてしまいそうな気がした。
 その闇の中を小さな光が無数に瞬き、幾つかの叫び声が響いた。最前線を走る部隊が敵影確認と味方への合図を兼ねた花火を使用したのだ。
 複数の花火の明滅が宵闇に紛れた敵影を断続的に浮かび上がらせる。
 その数、多数。
「困ったな……どれから狙えば良いんだろう」
 苦笑した良咲、そして周囲のリンカー達が武器をその手に顕現し、続々とライヴスの輝きを発露させてゆく。

 南部迎撃戦――開幕。

●縦深防御の夜
 薄い紫色の煙が群れを成し、宵闇の中を高速で泳いでいた。
 実体を持たぬ従魔ヴォルケルフ。彼らはその機動力を以て先陣を切り音もなく突撃している。
 そんな従魔が戦場を疾走していると、前方で仁王立ちをする小柄な人間の存在に気付いた。
「やいやいやい、そこな者ども! 狼と狼、連携と連携、どちらが強いか――目にもの見せてくれようぞっ!」
 ポプケ エトゥピリカ(aa1126)は得意げに宣言するや刀を下段に構え、獣のような俊敏さでヴォルケルフの群れに迫る。
 これを食い破らんと包囲し実体化したヴォルケルフ達だったが、その瞬間を狙い済ましたポプケの怒涛の剣閃の前に纏めて両断され、霧散。
「ふふーん。わらわの牙の方が上、だったなっ」
「続くよ! さあ、今回も頑張ろっ!」
 味方部隊に追従して最前線まで来ていたランカ(aa3903)が、後から更に飛来した敵をサーベルで豪快に叩き斬る。そのまま幾重もの斬線を描き、牙を剥いて襲い掛かる敵を撫で斬りにしてゆく。
 その頭上に矢のように降下する影があったが、横合いから放たれた一矢に胴を貫かれ断末魔と共に砂上に墜落。
「敵の目を潰す事も、忘れずにね?」
 偶然同じ行動――部隊への追従を選んでいた郷矢 鈴(aa0162)は敵の斥候たるデザートイーグルを警戒していた。アイコンタクトも束の間に前方より迫る更なる敵群を認め、各々が武器を構える。
 同様にして対処するが一匹、二匹と押し通る個体が現れ始める。単純な物量の差、手数に対して多過ぎる敵数。
 だが、最前線を抜けて疾駆するヴォルケルフの胴に――迫る刃。
「気が急いている者ばかりだな……がら空きだぞ」
 鋭い剣筋の一撃、返す刀の踊るような剣技で二閃、三閃と獣達を平らげる妖艶な少女の名は、宇津木 明珠(aa0086)だ。彼女は城壁跡と最前線の丁度中間地点に留まり、打ち漏らしの対処を担っている。
 更に何処からともなく機関銃の銃声が響くと、明珠の周囲にぼとぼととデザートイーグルの死骸が落下した。建造物の影で砂塵に紛れていたバルタサール・デル・レイ(aa4199)がサブマシンガンの銃口から立ち上る白煙を吹き消す。
「コロッセウムでの殺し合いとは良い趣味だな……観客は誰だ?」
 呟いたその瞬後、潜伏場所を変える為に踏み出した脚が止まる。銃声を聞きつけたヴォルケルフの群れがいつの間にか唸りを上げて彼を囲んでいた。
 その包囲網を外側から穿つ、雨のような銃撃。
「出遅れたな……! でも結果オーライ。助太刀するよ、おっさん」
 駆けつけた赤嶺 謡(aa4187)が構えていたのは、奇しくもバルタサールのそれと同型の機関銃だ。彼はヴォルケルフに苦戦する味方の救援を主眼に行動している。
 揃った二つの銃口が獣達に向けられ、激烈な二重奏を奏でた。
 そんな彼らのような中間層を護る者達をも通過し城壁跡まで達する敵は、ごく少数であり消耗も激しい。城壁上で狙撃銃のスコープを覗く狼谷・優牙(aa0131)や、ロケット砲を肩に担ぐ紺野 あずき(aa3833)にとっては良い的だ。
「此処で狙撃して、少しでも時間を稼ぎますよー」
「それ以上近付かないで下さーい……っ!」
 精緻な銃弾が宵闇に浮かぶデザートイーグルを次々射抜いたかと思えば、砂上を疾走するヴォルケルフ達が爆炎の中に消える。安堵の息を漏らして笑い合う少女たち。城壁に到達した敵――未だゼロ。
 リンカー達の布陣は、意図せずして最前線から最終防衛ラインたる城壁跡までに幾重にも防衛戦力が配置につく“縦深防御”の様相となっていた。これにより敵は進む程に消耗し、数的不利を強いられる。
 奇襲を警戒する者、敵の特性に適格な対処をする者、視界不良と遮蔽物を逆に利用する者――豊富な戦法も要因となり戦況は非常に優位に進んでいたと言える。

 この時は、まだ。

●優勢の代償
『頼む、救援を! このままじゃ保たな――ッぐあ!?』
 【アメフト】は飽く迄迎撃班として城壁跡の方角に出ていたが、味方の救援要請を受けて闘技場に急行した。そこで繰り広げられていた光景はお調子者の大佐田 一斗(aa3772)を愕然とさせるに十分なものだった。
「ッだよ……何なんだよ、これは……ッ!」
 彼らが見たものは――闘技場の目と鼻の先でレガリス=エニアに半包囲され苦戦する、あまりにも少数の味方達。
 立ち尽くす一斗に一体の従魔が接近し魔法剣を振るう。だがその剣は交差した双斧に阻まれ火花を散らした。
「私のお兄ちゃんに何してくれてるの何してくれてるの何してくれてるの?」
 その端整な顔を壮絶に歪めた大佐田 みどり(aa3941)が剣を弾き、怨嗟を込めて敵を抉る。
 だが――斧の一撃は従魔の眼前に展開された障壁のようなものに阻まれた。
「ったく、落ち着けっての。足元疎かにしてどうする……!」
 他方、佐藤 鷹輔(aa4173)が幻影蝶で敵を無力化させてゆく。一時的に沈黙するがその場凌ぎにしかならない事は分かっていた。この隙を突いてトドメを刺す味方を探すが、いない。圧倒的に戦力が、手数が足りない――。鷹輔は苦い思いで舌を打つ。
「後顧の憂いは我々で。従魔は任せておいて下さい……と、言いたい所だが……っ!」
 また他方では新座 ミサト(aa3710)が嵐のような鞭捌きで複数の敵を打ち付ける。苛烈な攻撃だが従魔は魔法障壁を展開してこれを防ぎ、次々と反撃の魔法剣を閃かせる。

 大多数のリンカーが迎撃に回った一方で、闘技場の防衛を担う戦力は非常に少数だった。
 【アメフト】のように迎撃班としつつも門より現れる従魔の対応も視野に入れていた者も僅かにいたが、彼らが合流したとしても依然、寡兵。
 更にその中でも敵との交戦以外の行動を行う者が多く、それ自体は不正解ではなかったが、状況に対して裏目に出ていた。
 従魔は闘技場への到達を最優先としていた為、戦闘への備えが十分でない者がいれば集中的に叩く事で穴を抉じ開けようとする。南西部の戦いとは対照的に、敵の攻め口に対してリンカー達のアクションは致命的に相性が悪かった。
 結果として従魔の群れは容易に闘技場の眼前まで迫り、此処まで防衛ラインを下げて来たリンカー達にその猛威を振るい、あまつさえ今も“門”の先よりその数を増やし続けている……。

 だが、そんな中でも少女は嗤った。
「守る戦いってなぁ退屈だ……そう思ってたがッ!?」
 落雷の如き大剣の轟閃を以て従魔を袈裟に両断し、武器を肩に担ぎ直しながら板チョコレートを行儀悪く頬張る獅子ヶ谷 七海(aa1568)。霧散した死骸の先に新たに三体の従魔が立ちはだかり、呪詛の如き謎の言語を発しながら自分に杖を向ける様を見て、七海――否――五々六(aa1568hero001)は深く凄絶に、嗤った。
「――あぁ、愉快だ」

●砂は橙に染められて
 南西部の戦いは依然として優勢。天秤の傾きは盤石であるかに思われた。
 だが時として強大な個が戦況を呆気なく覆す事もある。
 【道】を率いる振澤 望華(aa3689)は打ち上げ花火を夜空に放つと、硬い表情で通信機に警告を告げた。
 ――“燻る灰”と思しき部隊、発見。並びに進軍速度、上昇。

 アッシェグルート。爆炎と幻覚を操る愚神十三騎が一角。
 彼女はこの戦いに於いて、体が塩で出来た奇怪な人形、クラーゲンツァイシェンを周辺に従わせていた。少数ながら更にその周囲にヴォルケルフも走らせている。
 デザートイーグルは城壁跡の方向へ食い込むほどその多くが撃ち落とされてしまっているが、断片的に手に入る情報を基に進軍方向を決定。あとはただ進むのみ――だったのだが。
「あらぁ? あらあらあらあらぁあ?」
 その歩みが止まったのは眼前に一人の少女が立ちはだかったからだ。愚神の何処か毒々しい微熱を含んだ視線が少女に向けられる。
「あなた、ねえあなた? あたくしをパーティーに案内して下さるの? それともぉ……此処で一曲ぅ、誘って頂けるのかしらぁ……?」
 腫れぼったい唇を指で撫で、艶めかしく舌舐めずりをする愚神。相対するのは眼帯のリンカー、木陰 黎夜(aa0061)だ。「……まだ弱くても、アーテルと一緒に……」よく通る愚神の声に対してその声は細い。だが同時に強い意志を感じさせる、それは決意の言葉。
「……お前を、倒す」
 言葉を引き金に、漆黒の魔法書より放たれた火炎が炸裂。愚神のみならず周辺を固める従魔をも飲み込み、したたかに爆ぜた。
 だが愚神は哄笑を響かせながら燃え盛る爆炎を踊るように両腕で引き裂いた。その笑い声に呼応するように複数の従魔が黎夜に迫る。
「させるかッ! 先ァずは一発ッ!」
 その従魔の眉間を高速で飛来した矢が貫き、破砕する。射手の名を鬼灯・明(aa0028)――或いは“A”。
 クロスボウに装填された矢をぴたりと愚神に向けているが、その眼差しが己に向いた瞬間視線を逸らした。アレと目を合わせてはいけない。明は一瞥にて状況を観察し、声を張る。
「射線が通らねえな! 邪魔っけな護衛を引き剥がすのが先か!」
「同感」
 淡泊な声と共に銃声が複数。従魔の身にドッ、ドッ、ドッ、と連続して風穴が空き、その上半身が呆気なく崩壊した。駆けつけたのは黎夜と明だけでは勿論ない。未だ燃え続け、従魔の身を削り続けている炎が辺りを橙色に染めている。
 そこへ暗闇の向こうより歩み出て姿を現した、狙撃銃を構える男の名は木霊・C・リュカ(aa0068)――否。
「思ったより多い。邪魔。まずは雑魚掃除」
 その冷徹ながら何処か幼さを滲ませる言葉遣いは彼の英雄、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)のものだ。
 彼はスコープの中で早くも従魔達が再生を始めている事を視認するや、傍らの知己に視線で合図を送る。
「こころえました。征四郎、不敗の決意をもって臨みます――!」
 跳躍の如き深く長い踏み込みを見せたのは紫 征四郎(aa0076)。その周囲にライヴスを収束させ鋭利な刃物を形作ると一斉に射出。従魔に突き刺さり半壊したその身を、更に剣の一閃で斬り捨てる。
 再生とは真逆、毒の如き力を持つ攻撃を受けた従魔は崩れ落ちたまま沈黙。征四郎は血糊を払うように剣を振るうと八双に構えた。それは奇しくも毒草の名を冠した、魔剣。
「危ないですっ! 征四郎さん、避けてっ!」
「『オラァ! どけどけーッ! タナカさんのお通りだァ!!』」
 敵の間合いに踏み込んだ征四郎に二体の従魔の魔手が迫る。だが塩の腕は横合いから割り込んだ槍と剣にそれぞれ斬り上げられ、更に怒涛の武器捌きが周囲の従魔をも粉砕した。
「わあっ、本当に塩なんですね! 崩れると大きな盛り塩みたいです!」――幼きリンカー、葛原 武継(aa0008)と。
「ハ、盛り塩祭りかよ。縁起が良くて結構なこったなァ」――紅髪のリンカー、紅葉 楓(aa0027)だ。
 続々と集う者達の名は【Gift】。ある喫茶店の名を冠する腕利きのリンカー達だ。
 然し――まだであると。こんなものではないだろうと。
 期待に笑い、愉悦に笑い、そして快楽に笑う愚神。
「ふふふふふ――ふふ――ふ――おォォッほほほほほほほほほほほほ!!」
 彼女のおぞましいライヴスが豊かな胸の前で燃え上がり、身構えるリンカー達に向けて――放たれた。

●一つの決断、一つの結末
 走るその背を雷撃が襲う。回避した先から再び飛来する雷撃、光線、雷撃、光線。ミサトを追いすがるレガリス=エニアは周囲に複数の魔法陣を展開し、連続して魔法を放っていた。
「っ……しつこい、ぞッ!」
 反転、苛烈な鞭の三連撃を放つが障壁に阻まれる。三撃目で障壁はひび割れ、硝子のように砕け散るが――
「……忌々しい。よもやこれほど厄介とは」
 ――“別の障壁”が従魔の正面へ移動して来る。
「気を付けて。この敵、障壁を複数展開するわ……!」
 廿枝 詩(aa0299)が注意喚起を促しながら短機関銃で応戦する。障壁で受けるかと思いきや俊敏な動きで弾幕を回避。機動性は見受けられないが反応速度はある程度の水準があるのか。
(これだから未知の敵とはやりたくないのよ……!)
「危ない……!」
 そんな詩の横合いから飛来した雷撃を間一髪で東宮エリ(aa3982)が庇う。盾を貫通して幾分のダメージがその身に届き、魔法火力も高い事を身を以て理解する。
「っ、このままじゃいけない……でも、何時までもつ……!?」
 戦況は――悪い。
 既に防衛ラインは闘技場内部まで後退し、背水の陣と化していた。
 続々と増援を得ながら無慈悲に脆所を突かんとする敵に対し、薄皮一枚でこれを防ぎ続けるリンカー達。
 それは表面張力で零れずに保たれているコップの水に、じわじわと水滴を垂らすかの如く危うい戦況。
 その水が、遂にこの時。
『あッぐあッ、アアアアッぐあああああああッ!?』
 多くの者が冷水を浴びた心地で振り返った。
 何時の間にか闘技場の中央に到達していたレガリス=エニア。
 魔法陣より雷撃と光線が放たれ、床に横たわる英雄の身に注がれていた。
 響く絶叫。魔法を浴び痙攣する英雄。何かを求めるように天に伸びた手が無数の燐光と化し、消えた。
 呪詛の如き言語を呟きながら次の“処刑対象”を探し緩慢に浮遊する従魔。
「ッッックソォォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
 慟哭を吐き出す鷹輔が激情のままに魔法を従魔に放つ。障壁が破壊され注意が鷹輔に向く。
 その胸から突如として巨剣が生え、従魔は苦悶の呻きと共に霧散。
「こっから……だろォが……なァ……ッ!?」
 五々六が。
 全身を雷撃に、光線に、魔法剣に焼かれ流血しながらもチョコレートを荒々しく咀嚼し、なお爛々とその瞳に闘志を滾らせる五々六が――霧散した従魔の背後より現れ、嗤う。
 直後、小柄な体は大剣を引き擦りながら猛然と疾走し、従魔の群れに躍り掛かった。詩や鷹輔の援護攻撃により障壁が引き剥がされる。そこへ叩き付けられる五々六の重撃。
 他の従魔が反撃を行うがこれを【アメフト】がカバー。更に一斗、みどりが連撃を叩き込み撃破。
 殆どの者が、口には出さずとも一様に苦い思いで同じ結論に至っていた。
 撤退。
 事実、彼らが背に守る救助班達はにわかに撤退に向けた動きを取っている。
 その判断はどうしようもなく正しい。水は既に溢れたのだから。
「彼らの撤退の時間は、せめて私達が稼ごう」
 ミサトの言葉を契機に、リンカー達が跳躍し、そして。

「……了解だ」
 情報統括を行っていた波月 ラルフ(aa4220)の元に報告が入る。
 闘技場は、放棄。
 味方戦力は、撤退。
 寡兵ながらその身を賭した防衛戦力の奮戦により敵群の撃退には成功した為、万一にでも南西に陣取る迎撃戦力が背後を突かれる憂いはない。
(すまない……)
 だが、と浮かんだ謝罪は一瞬。戦いはまだ終わらない。ラルフは再び表情を引き締めると口元に通信機を近付けた。

●舞踏会と十二時の鐘
 笑い狂うアッシェグルートの周囲で連続して火柱が立ち上る。或いは回避し、或いは防ぎ、或いは庇われながらリンカー達はこの猛攻を紙一重で凌ぐ。
(攻めあぐねる、です……!)
 治癒の雨を一帯に降り注ぎながら征四郎は歯噛みした。やはり従魔の壁の突破に苦慮している。
(此方が幻覚攻撃への対策を講じている事や、その目を狙っている事を察知するや、従魔に守りを任せて爆炎魔法でやりたい放題、か……ああ、お兄さん困っちゃうなあ!)
 オリヴィエに戦闘を任せながらリュカもそのように分析する。絶え間なく炎が爆ぜる中、愚神は従魔に囲まれながら踊るようなステップで前進を続ける。
 そんな折に響いた――声。
「ミネラル人形の十体や二十体っ! どぉって事ねーぜ!」
 【Gift】の左後方でライヴスが立ち上った。ガラの悪い笑みを浮かべながら銀の盾を構えるのは旧 式(aa0545)。みるみるうちに護衛役たる従魔の一部が離れ、式を目指して殺到し始める。
「デクリオ級接近! 火力を集中します!」
 その傍らに立つ唐沢 九繰(aa1379)が号令をかけると、遺跡の影より現れた九字原 昂(aa0919)と榛名 縁(aa1575)がライヴスで精製したワイヤーとメスをそれぞれ放つ。
「こんな感じで大丈夫でしょうか?」
「集中して……放つっ!」
 更に九繰の背後より、彼女が救援した味方の援護射撃が雨のように降り注ぎ、従魔達は忽ち蜂の巣となった。
 即座に再生が始まるが昴と縁が攻撃した個体は沈黙したままだ。
「やっぱり、再生した先からダメージを与えるような技なら……! いけるよみんな! 頑張ろうっ!」
 味方を鼓舞する九繰の笑顔は、まさしく荒涼とした砂漠に咲く一輪の花が如く。
 彼ら【TKN】は建造物を利用して従魔を迎撃しながらもクラ-ゲンツァイシェンの出現時は優先して倒す方針を取っていた。愚神の進行方向にこの【TKN】が現れた事が彼女にとっての大きな誤算。
 護衛が、剥がれる。
 攻撃が、届く。
「ンー、脱がすにはムードが大事ですのよ? 無粋な方々ねぇ、ンッふふふふふ!」
「無粋っつーならあんたの方だろ。塩分過多の厚化粧、見苦しいぜぇ?」
 ニタニタと笑みを浮かべる式に向けて愚神が攻撃の動作に入るが、射撃音と呼ぶにはあまりに暴力的な音が割り込んだ。彼女の傍らに立つ従魔の半身が一瞬で弾け飛ぶ。
「先の戦いでは、私の仲間が世話になったようですね」
 その呟きが届いたか否か。遥か後方、風化した建造物に設置した対物ライフルのスコープを覗く笹山平介(aa0342)が、月よりも冷たく微笑んでいた。
 にわかに沸き立つ、濃密な殺意の気配。
 愚神は僅かに頬を紅潮させ、背筋を悦楽に震わせながら周囲のリンカーに“視線”を向ける。
 だが即座にその顔を目掛けて高速で矢が飛来。従魔が身を呈して防ぎ、崩れる。
「ほの眼はひへん……ふはわへないほ……!」
『え、何て?』
 平介の傍らで弓を構え、チョコバーを咥えた今宮 真琴(aa0573)が愚神の幻覚能力の起点となる眼の警戒手を担う。
 そして手薄となった護衛の隙を縫い、愚神に接近する影が二つ。
 一つ――長い赤髪を靡かせる疑似的なオッドアイの男。
「おめさはわがらねべ……わがらねまま灰さ戻っでれ!」
 そして一つ――琥珀色の眼光が宵闇に残像を描く、漆黒の忍装束。
「うむ……そして灰は砂と共に散らさねばなるまいて――!」
 齶田 米衛門(aa1482)と小鉄(aa0213)の視線が左右から交差し、刀と回転鋸が合計六重にもなる高速の斬閃を描く。柔肌を熾烈に斬り裂かれた愚神は悲鳴とも嬌声ともつかぬ声を夜空に歌い上げた。
「文字通り化けの皮、今度こそ剥ぎ取ってやりたいですね……!」
 畳み掛けるように放たれたのは秋津 隼人(aa0034)が召喚した無数の白矢。愚神の化粧を狙ったそれは、狙いが逸れたものの次々と胴に突き刺さる。
「あァ、あっ、ンッ、くン……フ、フフ、ふふふほほほほ」
 だがアッシェグルートは笑うのだ。何故ならば、嗚呼何故ならば。
「――ンン愛ッ! 愛ですわァッ!! あああ愛ィィィィイイイッ!!!!」
 恍惚をたたえた顔を晒し、至上の喜びを抱くように両の腕を広げる愚神。
 その興奮に見開かれた眼差しが前方のリンカー達を舐め回す。
(まずいでござる……ッ!)
 小鉄を始めとする視界にいたリンカー達が即座に目を逸らす。だがその行為は乱戦に於いては仇ともなる。
 ヴォルケルフの群れが高速で展開し視界の不安定なリンカー達に喰らい付いた。不覚を取った彼らを更にクラーゲンツァイシェンが捕縛。
「喰われる前に――」
 そんな彼らの足元に着弾した一対のライヴスが二重の業火と化し、爆ぜた。
 炎は従魔のみを焼き味方が距離を取る契機となる。
『――喰ライ尽くス』
 砂を踏み並び立つ二人の可憐なソフィスビシャップ、名を佐倉 樹(aa0340)と御代 つくし(aa0657)。
 炎が照らす樹の笑みには何処か凄惨な狂気が滲み、対照的につくしは砂で汚れた顔を凛と引き締め、そして。
「私の大切な『家』に、二度と手出しはさせない――!」
 反撃に放たれた愚神の爆炎魔法が二人を襲うが紅の影が高速で接近。炎が晴れた時そこに立っていたのは二人を庇うように魔剣を構えたクレア・マクミラン(aa1631)。
「誰も彼も無茶をしてくれる。忙しいですね」
「全くだが――此処は無茶をするところだ、とも」
 更にその隣に立つのは真壁 久朗(aa0032)、彼ら【鴉】の護り手にして長。
 響き渡る剣戟と銃声、吹き荒ぶ砂塵の中、久郎と愚神の視線が交差する。
「……!? 駄目、真壁さんっ!?」
 その眼を見ては。焦燥に駆られるつくしだが、遅い。愚神は既に幻覚魔法を行使している。
 ――だが。
 久郎は己を見失う事はなかった。真っ直ぐに愚神を射抜くその眼差しは一片の濁りも見られない。仲間達は彼の様子に瞠目していた。癒しのライヴスも、仲間の呼び掛けも得ずに、その意識は混濁する事なく眼前の禍々しい女に向けられている。
「この程度で俺達が屈する事はない。何度でも抗うまでだ……!」
 何故、どうして。
 過去に幻覚魔法を受けた米衛門は思考する。自分にあるものは敵を穿つ攻撃力だ。では久郎にあるものは?
 考察は一瞬。瞬きほどの空白を切り裂いたのは一発の銃声だ。
「愛……と言ったか」
 闇に紛れたレイ(aa0632)の怜悧なる狙撃が愚神の胸元を正確に射抜いていた。
「……じゃ、この弾丸の愛、受け取ってくれ」
 更に飛び込む二つの影。右方より【BR】の赤城 龍哉(aa0090)の大胆不敵な跳躍。
「炎の魔法が得意か――面白い! なら爆裂比べと行こうかッ!」」
 振り抜かれた拳が、爆ぜる。更に左方より影の如く迫る男は同じく【BR】のリィェン・ユー(aa0208)。極限まで無駄を排除した静かなる刀の一閃が愚神の身に迫る。
 だが――二人の攻撃は両の手でそれぞれ従魔を掴み上げ、盾にした愚神に防がれる。
「良いのか? そろそろ護衛が足りないんじゃないか……?」
 薄笑みを浮かべるリィェンの指摘通りに、愚神を護る従魔はその数を大きく減じていた。レイの弾丸が阻まれる事なく届いた事がその証左だろう。
 味方が愚神と戦う隙に着実に従魔を撃破している【TKN】こそこの戦場最大の功労者だ。
 尤も戦況は――それでも優勢とは行かない。
「まだですわ、まだですわぁ、もっとあたくしと乱れましょう……?」
 妖艶に笑む愚神がリンカー達に一瞥を向ければ、幻覚を警戒し視線を逸らす。これにより乱れた足並みを俊敏なヴォルケルフが突き、更に愚神の火柱が広範囲を焼き払う。愚神自身への攻撃は従魔の壁により決定打に至らない……。
 じりじりと進む愚神達が遂に城壁跡の切れ目にまで達した時、その通信は入った。

『もう十分だ、“十二時の鐘”を鳴らす頃だろう! 撤退! 繰り返す、撤退!』

 ラルフからの通信だった。
『余裕そうな言動に惑わされるな。敵はそれ以上進むのはキツい筈だ』
 その言葉が示す通り敵の進軍速度は今や大きく鈍っていた。理由としては護衛たるクラーゲンツァイシェンが半数以下まで減っている点。それに伴い戦力豊富なリンカー達の布陣の中を突き進む事が困難となっている点にあるだろう。
 それは確かに敵軍に与えた確かな打撃だ。だがその為に払われた代償も大きい。
 愚神の爆炎魔法によりリンカー達も負傷が嵩んでいる。そして――闘技場の放棄。
 皆苦い顔をしつつもこれ以上の交戦は得策でないとして頷き合い、後退の動きに移行してゆく。
「あら、もうお帰りになられるの? またお相手して下さるかしら……?」
 背を向けるリンカー達に、愚神はスカートの裾を摘まみ淑女の如く深い一礼を送った。
(見ていろ……お前を必ず、必ず……!)
 その様を振り返り胸中で苦々しく独りごちたのは、果たして誰だったか。
 かくして砂と炎にまみれた前哨戦は、このように勝利の行方が判然とせぬまま幕切れとなった。

 砂漠に束の間の静寂が舞い降りる。
担当:
ららら
監修:
御神楽
文責:
クラウドゲームス株式会社