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東嵐 第3フェーズ:リプレイ


PCイラスト
御神 恭也
aa0127
PCイラスト
只野 羅雪
aa0742
PCイラスト
唐沢 九繰
aa1379
PCイラスト
ポプケ エトゥピリカ
aa1126
PCイラスト
エミル・ハイドレンジア
aa0425
PCイラスト
賢木 守凪
aa2548
PCイラスト
アル
aa1730
PCイラスト
郷矢 鈴
aa0162
PCイラスト
彩咲 姫乃
aa0941
PCイラスト
六鬼 硲
aa1148
PCイラスト
イリス・クレセント
aa1685
PCイラスト
真壁 久朗
aa0032
PCイラスト
努々 キミカ
aa0002
PCイラスト
浪風悠姫
aa1121
PCイラスト
紫 征四郎
aa0076
PCイラスト
秋津 隼人
aa0034
PCイラスト
リッソ
aa3264
PCイラスト
エクス
aa0965
PCイラスト
アヤネ・カミナギ
aa0100
PCイラスト
ヴィント・ロストハート
aa0473
PCイラスト
鳥居 翼
aa0186
PCイラスト
久遠 周太郎
aa0746
PCイラスト
八咫
aa3184
PCイラスト
コルト スティルツ
aa1741
PCイラスト
百日 紅美
aa0534
PCイラスト
餅 望月
aa0843
PCイラスト
今宮 真琴
aa0573
PCイラスト
御代 つくし
aa0657
PCイラスト
藤丘 沙耶
aa2532
PCイラスト
鹿米夕ヰ
aa0819
PCイラスト
月鏡 由利菜
aa0873
PCイラスト
火乃元 篝
aa0437
●激突
 陣形を整えたアンゼルム軍が、幹線道路をつたって北上を再開していた。
 ――アンゼルム様。長海様より賜りましたご援軍の方々、撤収してございます。
 マスケテールの報告に、デスハウンドの背に立つアンゼルムは眉ひとつ動かしもせず。
「斬られる前に逃げ帰ったか。阿呆なりに頭の回る奴もいたようだ」
 彼が見据えるは、3000メートルの果てにあるHOPE香港九龍支部。
「これより僕たちはすべてを破壊し、隅々まで蹂躙し、余さず殺す。それを終えるまでに、彼奴らはどれほど楽しませてくれるかな」
 マスケテールは応えず、ただ深く頭を垂れてその場を辞した。

「皆の者! 目ざすべき敵は、そこにある!」
 攻め寄せる従魔を討ち、アンゼルムへの道を斬り拓くことを任とした『隊列突破』作戦。その中の【労組】小隊を率いる火乃元 篝(aa0437)が高らかに告げ。
【労組】の隊員たち、そして他のエージェントたちが一斉にAGWを手に取り、身構えた。
「こちら【労組】の只野です。敵先陣はマスケテール14に率いられたリーンゾルダ124。12個小隊をつくってななめに配置した形で進軍中です」
 力を温存し、アンゼルムとの対決に備えている『アンゼルム』作戦参加エージェントの後方で、通信機械を駆使して戦場の情報をとりまとめている【蝶】こと山田 太郎(aa3891)が、戦場データを更新しつつ只野 羅雪(aa0742)へ通信を返す。
「【蝶】の山田です。敵は雁行陣をとって、こちらの突撃を受け止める構えのようです。中央部にぶつからず、端の部隊を狙ってください。デスハウンドの生き残りにもご注意を」
 このコメントは【蝶】のネットワーク参加者によって速やかに各員へもたらされた。
「ようするに、いちばん前にいるマスケテールを取っちゃえばいいんですよね! 目標、敵従魔指揮官! 作戦はシンプルに。行きますよ、突撃ッ!!」
 小隊長・唐沢 九繰(aa1379)の号令一下、【TKN】小隊が先駆ける。
「エージェントたちよ、奮い立て!! ここが私たちの分水嶺だ!!」
 篝を先頭に、【労組】もまた動き出した。
 彼らをまず出迎えたのは、リーンゾルダどもの矢。それは上空で分裂し、豪雨と化して降りそそぐ。
 エージェントたちは駆けながら盾や得物を掲げてこれを防ぐが、その中で、自らを守る暇さえ惜しんで加速する小さな影がふたつあった。
「今日もわらわが一番槍だ!」
 小さな体をさらに縮め、陣の先端に怒濤乱舞でぶち当たるポプケ エトゥピリカ(aa1126)。マスケテールを守るリーンゾルダの盾を蹴り、跳ね返されるように後退した彼女は即座に次撃の予備動作に入る。
 ポプケがこじ開けた陣の隙間へ飛び込んで盾を振り回し、従魔どもの目を引き付けるのはエミル・ハイドレンジア(aa0425)だ。
「おにごっこしようぜー。みんなが、おにー♪」
 エミルが敵陣をかきまわしている間に肉迫したエージェントたちが、先頭に配備された従魔小隊へ食らいつき、指揮官であるマスケテールへ集中攻撃を開始した。
 本来は陣の中央で敵を受け止め、左右からの挟撃を行うことを主目的とした雁行陣だが、端を突かれれば機能の多くを失う。
 言葉を乗せたライヴスを飛ばし合い、陣の変更を試みるマスケテールどもだが、この作戦に参加するHOPEエージェントは56組。そこへ古龍幇からの助勢60組を加え、数では劣るものの戦力は互角。結局は陣を崩され、乱戦に引きずり込まれることとなった。
 そして。
「……亡霊ならおとなしく死んでいろ。目障りだ」
 犬歯を剥いて吐き捨てた賢木 守凪(aa2548)が、目の前のマスケテールをデュアルブレイドで一気呵成に攻め立てた。
(っと、LPCのことも気にしておかないとな)
 アンゼルムのパッシブスキルに対する切り札、LPC――ライヴス・プラズマカノンから従魔の目を引き離すべく、守凪は体を入れ替えた。
 その中で、アル(aa1730)の蛇腹剣が1匹のマスケテールの首を飛ばした。そのことにより、指揮下にあったリーンゾルダが攻撃の手を鈍らせる。
「リーダーを崩せば他は脆い!! 後は任せたよ!」
 リーンゾルダには目もくれず、次の従魔小隊を目ざすアル。
 篝は大剣をかざしてエージェントたちを鼓舞した。
「よし。頭を潰せば手足は止まる! このまま攻めよ!」
 その篝を制し、まわりと【蝶】へ告げたのは羅雪。
「――デスハウンドです。数は6、こちらの後方にて偵察行動を行っています。おそらくは、仲間に情報伝達すると同時に奇襲をかけてくるものかと」
 常にデスハウンドを警戒し、その動きを予測、観測してきた彼女の働きが、ここで実を結んだのだ。
「回り込んできましたか。ですが」
 犬の鼻を惑わすため、泥で汚したタオルケットにくるまったまま時を待っていた郷矢 鈴(aa0162)が、フェイルノートで先頭のデスハウンド、その鼻面を撃ち抜いた。
「ギャウっ!?」
「奇襲される前に奇襲をお返しします。存分にお召し上がりください」
「取巻き狙いだ、削ってくぞ!」
 こちらは大鎌を振るってデスハウンドを狩る彩咲 姫乃(aa0941)。狩っては退き、退いては飛び出すヒット&アウェイで攻める。
 存在を暴かれたあげく、闇雲に飛びかかってくるデスハウンド。それを助けるためか、2個小隊分のリーンゾルダが長槍を構えて突撃をかけてきた。その連動はしかし、エージェントたちによって着実に阻まれ、切り崩されていった。
 と、誰もが思ったとき。
 隊を率いることなく遊軍として控えていたマスケテール2匹がブルームフレアを放った。それに続き、マスケテールどもが次々とブルームフレアを燃え上がらせる。
 この従魔の指揮官どもは、声ならぬ声でささやきかわしたのだ。デスハウンドを囮として使い捨てると。

●横槍
 HOPE、古龍幇問わず、多くのエージェントが炎にまかれ、攻勢を覆されていく。
 そこへ。
「僕たちはこのときのため、ここにいました……!」
 トキ クロエ(aa1114)率いる【ダンボール】小隊が、他の回復担当エージェントとともに戦場へその身を投じた。
 回復役とその護衛兼負傷者回収役に人員を分けた【ダンボール】を中心に、速やかな救護活動が展開される。
「怪我をされた方はこちらへ。すぐに治療をいたします」
 大鎌を振るって群がってくるリーンゾルダを退け、負傷者を救い出す【ダンボール】のコージリア(aa1369)。
 彼女が護衛してきた負傷者を癒やすのは、同僚の井上 神楽(aa1545)である。
「怪我人には指一本触れさせまへん! それがうちの意地だす!」
 戦場のただ中、六鬼 硲(aa1148)は倒れ伏した古龍幣のリンカーを助け起こした。
 リンカーは自分にかまわずHOPEの仲間を助けろと告げたが、硲は強くかぶりを振って。
「私たちにとって、あなたも大切な仲間ですから」
「僕は弱い――けれど今、うずくまって震えているわけにはいきません!」
 その金眼に決意を燃やし、トキは戦場を駆け巡る。彼女の肩には常にHOPEや古龍幣の負傷者が負われ、指は短機関銃の引き金を引き続けていた。
 それらの様子をカメラに収めていた寫眞 撮生(aa4007)が息をつく。
「市民に情報を届けるのも大事なお仕事ですからねェ」
 HOPEと古龍幣。今までは水と油であったはずの両者が同じ敵に向かい、共闘している。その記録は記憶となり、両者の心をより深く結びつけてくれるはずだ。

 エージェントからの反撃を受けながらも、従魔軍は陣形の再構成を完了する。
『こちら【蝶】! データをいただきましたその三角型の陣形は魚鱗陣です! 敵は消耗戦に備えつつ、こちらを一気に突破するつもりでしょう。側面および後方に回り込んで攻撃を!』
 戦場から送られた情報を分析し、太郎が送り返してきた。
「ってことですから、回り込める人たちはお願いします。その時間、私たちが稼ぎます!」
 言い置いて、九繰が大斧の刃を敵陣へと向けた。
「マスケテールを狙いつつ、敵を押し止めます! 【TKN】、突撃!!」
「【労組】の同胞たちよ! 【TKN】と共闘するぞ! それから情報を滞らせぬようにな!」
 先頭に立つ篝の号令で、【労組】も突撃。魚鱗の先端へ一撃を叩きつけた。
「わたしもお手伝いするよ。がんばる」
 味方の突撃に合わせ、ランカ(aa3903)のブルームフレアが、前で指揮をとるマスケテールを中心に敵陣を焦した。
 これをきっかけに、敵陣の中へエージェントたちの魔法と矢弾が撃ち込まれていく。
 突撃を封じるための突撃。従魔軍がひとつの組織であることにこだわらなければ、成功はなかったかもしれない。しかし幸運の女神は、個別に戦いながらも情報を有機的に行き交わせ、共闘したエージェントたちに微笑んだのだ。
「アンゼルムへの道を斬り拓くは私の使命だ」
「ん、こっちでもおにごっこ、する」
 機動力を生かしていち早く敵陣の右側面へ回り込んでいたポプケとエミルが、範囲攻撃に巻き込まれて注意を損なっていた従魔軍へ文字通りの横槍を突き込んだ。
「道を開けますよ! 【月剣】、行きます!」
 雷上動から紫電を放った【月剣】小隊長、イリス・クレセント(aa1685)。支援は他の隊員に任せ、自身は得物をドゥームブレイドに換装。先に突っ込んだちびっこたちを追って敵陣へ向かった。
 敵陣の裏に回っていた隊員とも呼応し、【月剣】が作ったのは「入口」と「出口」。横へ回ったエージェントたちが、このふたつの点を繋ぐべく奮闘する。
 かくして敵陣は大きく斬り裂かれ、さらにその傷口をエージェントたちがかきむしり、押し広げ、蹴り開けた。
 それを確かめたイリスが、【蝶】を通じて後方へ声をかける。
「真ん中を堂々と通ってもらえなくてごめんなさい。でも、道は拓きました。――アンゼルム担当のみなさん、お願いします!」

●一矢
 運動会館の壁に背をもたれ、前方で死闘を繰り広げる配下に半眼を向けていたアンゼルムが。
「来たか」
 目を開いた。
「抗いにな」
 短く応えたのは、【鴉】小隊長、真壁 久朗(aa0032)であった。
「ならば、見せてみよ」
 ゆらり。垂れ下がっていたアンゼルムの右腕が黒くゆらめき、闇に溶けようとしたそのとき。
 ぱん。アンゼルムの後方、その上空で光が弾け、闇をひと息に押し退けた。【第6館】小隊による、照明弾の光である。
「すべての舞台は整った!」
 次々と打ち上げられ、闇を駆逐する極小の太陽の下、不敵に笑んだ口の端を鋭く引き下げ、【幻想詩】小隊長、努々 キミカ(aa0002)が高らかに告げて跳躍。
「アンゼルム、お前の墓場はこの地だ!」
 火之迦具鎚を、アンゼルムの頭頂部目がけて思いきり振り下ろした。
「今は正義ではなく、仲間のために!」
 その攻撃に、【幻想詩】の浪風悠姫(aa1121)がロングショットが重ねられる。
「これが連携? ……せめて僕の右腕を落としたときくらいのものを見せてみろ。そうでなくば、わざわざ待ち受けていた意味がない。だが」
 左の手甲で槌と弾丸を払い退けたアンゼルムが、未だ宙にあるキミカの腹に実体なき右手を押しつけた。
「見せられる芸がないのであれば死ね」
「アンゼルムの攻撃が来ます! 影を見て防御してください!」
【第6館】に参加した紫 征四郎(aa0076)が、照明弾対策用のサングラスの奥から目線を巡らし、仲間に声をかける。
 果たして。キミカを貫いたアンゼルムの影刃が地に蛇行を描き、エージェントたちへ襲いかかった。
「みなさん俺の後ろに! 守ります、絶対に!」
 久朗とともに盾をもって仲間をカバーリングし、秋津 隼人(aa0034)はアンゼルムの右腕をにらみつける。その腕がなにかを放つ予兆を見逃さないために。共に戦う仲間を、誰ひとり死なせないために。
 盾で剣影を弾いた征四郎が前進する。
「あなたはとても強いけれど、私たちは皆で力を重ねてあなたに勝つ!」
 そのとなりに並ぶ【第6館】小隊長リッソ(aa3264)は15式自動歩槍を構え。
「さて、彼は私たちの糧になってくれるかな?」
 ふたりに続き、前衛担当のエージェントたちがアンゼルムへと向かった。
「以前もこのように囲まれたのだったな。だが、ぬるい」
 刃の影が、照明の下に白く照らし出された土を黒く塗りつぶした。
「なに?」
 味方とアンゼルムを挟撃すべく回り込んでいた【幻想詩】のエクス(aa0965)がぞくりと足を止めようとし――宙に飛ばされた。
 アンゼルムを中心とし、放射状に伸び出した刃が、迫る前衛をまとめて斬り飛ばしたのだ。
 地に倒れた仲間を助けるため、長距離攻撃がアンゼルムに撃ち込まれるが、散漫な攻撃はアンゼルムの『唯我の白刃』に弾かれ、無効化されて終わった。
「こういうのはチートと言ったか……。なにを食べたらこうなるのだろうね」
 傷ついた体を引き起こしながら、リッソがため息をつく。
 賢明な彼はとうに気づいている。アンゼルムは、他者のライヴスを思うままに貪り喰らってあそこまでの力を得たのだと。

 アンゼルムの猛攻が続く。
 形なき影の刃はまさに自在。あるときは線、あるときは点、またあるときは面と化し、エージェントを斬り払った。
 そして『唯我の白刃』である。影を見るという防御法が見出されたことにより、被害自体は最小に抑えられてはいたが、長距離支援が無効化されることで攻撃の起点が得られず、エージェントたちは攻めるに攻められない。
 結果、アンゼルムを取り巻いたままエージェントたちは少しずつ傷つき、じりじりと後退する。
「僕を倒すために来たのではないのか?」
 顔をしかめて吐き捨てたアンゼルムが一歩、前へ踏み出した。
 それを見たエージェントたちは目線を投げ合い、一歩後退。
「ふん」
 この新たな腕と剣とでエージェントたちを絶望させる。そのために彼は、エージェントの到来を待ち受けていた。
 言葉を換えるなら、それだけ認め、期待していたのだ。一度は彼を打ち倒し、右腕を落としたエージェントたちとその抵抗に。しかし。
「つまらん。つまらんな。この程度か」
 エージェントたちへの興味を失くしたアンゼルムが、さらに歩を進めようとしたが。
「……ほう。まだ生きていたか」
「あきらめが悪いのが性分でな」
【刻庭】小隊長アヤネ・カミナギ(aa0100)と、
「アンゼルム、貴様にひとつ足りないものがある。自分が『狩られる』覚悟だ」
 同じ【刻庭】のヴィント・ロストハート(aa0473)により、止められた。
「狩人に獲物の心得など不要」
 刃影が雨のように地を埋め尽くし、アヤネとヴィントを打ち据えた。
「無理をするな」
 その剣呑な雨を盾でカバーした久朗がふたりに言う。
「あと1分保てばいい」
 アヤネの返答に、久朗はかすかに眉尻を跳ね上げ、そしてうなずいた。
「わかった」
【刻庭】と、後退から反転した前衛のエージェントたちがアンゼルムへ打ちかかる。
「それで僕の喉に届くとでも?」
 アンゼルムの剣が黒い軌跡を刻んで飛ぶ。
 斬られて地に落ちたエージェントたちは互いに引き起こし合って立ち上がり、またアンゼルムへ向かう。その目には強い決意があり、覚悟があり、そして、希望があった。
 その中で、鳥居 翼(aa0186)が泥と血で汚れた顔を笑ませ。
「照明弾、か。ちょっと、イタズラしてみよっか」
 アンゼルムの影を照らすため、定期的に打ち上げられている照明弾。そこに彼は幻影蝶を潜ませたのだ。
 蝶は照明の光にまぎれて飛び、アンゼルムの上空で炸裂した。
「っ」
 蝶1頭ではアンゼルムの防御を貫くことはかなわなかったが、アンゼルムの心を乱す精神攻撃としては充分な機能を果たした。
 翼へ刃を飛ばしながら、アンゼルムはイライラと息を吐く。
 ――なんだ、これは。
「よぉ、アンゼルム。楽しそうだな。自分の体や姿に誇りも愛着も持たずに、鎧着込んで武器振り回す騎士様ゴッコ。俺もちょうど白甲冑だし、混ぜてくれよ」
 血塗れの頬に嘲笑を貼りつけた【労組】の久遠 周太郎(aa0746)が、アンゼルムへライオンハートを振り下ろした。カツン。前線で体を張り続けてきた彼の体にはもう、白銀に傷をつける力すら残されていなかった。
 無言で彼を斬り伏せるアンゼルム。その後ろから飛びかかってきたエクスを返す刃で斬り飛ばした。
「もっとだ。もっと来い……! 貴様も愚神なら、俺を殺してみろ!」
 ドラゴンスレイヤーにすがって立ち上がり、『守るべき誓い』を発動したエクスが震える親指で自身の胸を差した。
 ――彼奴らはなぜ、これほどまでに死にたがる?
 解答を得られない違和感が、アンゼルムの思考を曇らせる。
 いや、それだけではない。
 影の右腕が、剣が、わずかではあるがアンゼルムの意志によらずその動きを鈍らせていた。
 ――動揺しているのか、僕は。
 アンゼルムは疑問を振り払うように刃を大きく薙ぎ、エージェントたちを斬った。
 そのただ中で。
『こちら【蝶】! お待たせしました、カウントを開始します。30、29、28、27――』
 太郎からの通信が、【蝶】のネットワークを揺るがした。

 ――場面は一度、太郎のカウントが開始する30秒前へ巻き戻る。
「こちら【鳥翅】。【蝶】、聞こえてる? あと1分で発車準備完了するよ。みんなに知らせてー」
 アンゼルムからおよそ100メートル離れたビル群の一角に身を潜めていた【鳥翅】小隊長の八咫(aa3184)が、通信機にこっそりとささやきかけた。
 彼女の後ろにはジェネレーターが生み出す荷電粒子を飲み込み続けるライヴス・プラズマカノンの巨体と、トリガーに指をかけたまま意識を集中させる射手、コルト スティルツ(aa1741)の姿がある。
「も、もう少し、アンゼルムから離れた場所だったらよかったんですけど……」
 あふれ出す汗を拭き拭き、椿 象十郎(aa1765)がこぼした。
 その背中を、彼の同僚であり、もう1台のプラズマカノンの射手である百日 紅美(aa0534)がどやしつけた。
「しょうがないでしょ。射角がとれる場所、ここしかなかったんだから」
 言いながら、彼女もプラズマカノンに駆け寄り、トリガーに指をかけた。
 緊張が、引き絞られていく――
 と。通信機で太郎からの指示を受けた八咫が一同へ。
「【蝶】がカウント開始した。こっちも合わせるよ。26、25、24、23――」
「あたしの仲間をよくも……かわいがってくれたわね!」
 口の端を吊り上げ、紅美が標的をにらみつける。
 仲間たちが猛攻に堪え忍びながら導き、周太郎やエクスがその命を賭けてこちらへ向けてくれた、アンゼルムの背を。
「――5、4、3、2、1」
 ゼロ。
「倍返しするわ!!」

●夜明け
「全員、一時退避!」
【蝶】の連絡を受けた久朗の指示により、速やかにエージェントたちが散開した。
 ――エージェントたちは、供給された2台のライヴス・プラズマカノンを従魔軍ではなく、アンゼルム討伐に使うと決めていた。
 超火力を誇るプラズマカノンは確かにアンゼルム戦の切り札となるだろう。しかしその重量やチャージ時間の長さ、射撃可能回数2回という問題があった。
 だから、据えつけたのだ。貴重な戦力である4人のエージェントを戦場から離してまで。
 あの劣勢はけして演じていたわけではない。しかし、エージェントたちはその劣勢をある意味で利用し、アンゼルムをおびき寄せた。
 アンゼルムへ一矢を撃ち込む。ただそれだけのために。
「なに?」
 振り向こうとしたアンゼルム。
 その背に、ライヴスによって亞異世界化された荷電粒子の束が到達し。
 白銀の鎧を打ち砕いた。
「が――あ――あ!」
 青白き奔流に巻かれ、アンゼルムが前へ吹き飛ばされる。彼の体は幾度も地に跳ねて転がり、その度に砕けた白銀の欠片をばらまいた。
 意識外からの、完璧な奇襲。それを受けたアンゼルムは『唯我の白刃』を発動することができなかったのだ。
「まだだ! 『唯我の白刃』をへし折るぞ!」
【刻庭】へ反転攻撃を指示したアヤネがライヴス結晶を握り割った。リンクバーストが発動し、アヤネが、契約英雄のクリッサ・フィルスフィアが、「一なる者」として完成される。
「俺が壊れるまでにアンゼルム、貴様を壊す。さぁ……愉しもうぜ」
「【鴉】、一斉攻撃を開始!」
「【第6館】は射撃を集中! 照明も絶やさないように!」
 久朗とリッソの声が重なった。そしてさらに。
「【鶏鳴机】、『唯我の白刃』を壊したら、そのまま右腕狙いで行きますよ!」
 各小隊と連携し、アンゼルム誘導を担っていた【鶏鳴机】小隊もまた、餅 望月(aa0843)を先頭に、今ようやく地に落ちて止まったアンゼルムへ駆ける。
「小賢しい真似を!!」
 エージェントたちの一斉攻撃をその身に受けながら、アンゼルムが影の刃を飛ばした。
 その一閃は、限りなく細い線。それはエージェントたちの間を縫って進む。
「あの影を止めてください! アンゼルムはLPCを狙っています!!」
 常にアンゼルムの予備動作や刃影を追っていた隼人が叫んだが、しかし。
 影の切っ先は味方の陣を突き抜け、プラズマカノンへ迫っていた。

「――アンゼルムの攻撃が来るって! プラズマカノンが壊されちゃうよ!」
【蝶】のネットワークから警告を受けた八咫が、他の3人にあわてて報告した。
「『白刃』が剥がれるまでもう少しですのに……!」
 それでもトリガーから指を離さないまま、コルトが舌打ち。プラズマカノンはいつでも撃てる。しかし、奇襲効果が期待できない以上は効果が見込めないし、仲間を巻き込むことにもなる。
 歯がみしている間に、アンゼルムの切っ先がビルを這い上り、プラズマカノンに到達する――
「痛いのは嫌だ……でも、命の張りどころですよぅっ!」
 お守り代わりのリボルバーを握りしめた象十郎が、切っ先目がけてその身を投げ出した。
「あーあ、そうなっちゃうよねぇ」
 その背に体を重ねた八咫が苦笑い。切っ先は彼女の胴を突き抜け、あえて構えず背負っていたアイアンシールドに当たり、止まった。
「……アンゼルム、みんなの集中攻撃、食らってる。コルト君、まっててね……ヤタ、ちゃんと合図、するんだよ」
「頼みますわ」
 コルトは八咫にそれだけを返した。射手が成すべきは、観測手の指示を受けて標的を撃ち抜く。それだけだ。
「つ……次も、ぜ、絶対、止めます……から」
「頼りにしてるからね」
 脂汗で顔を濡らした象十郎へ歯を食いしばって笑みかけ、紅美はチャージ中のプラズマカノンにとりついた。

「僕の『白刃』は砕かせん!」
 エージェントの一斉攻撃を、アンゼルムは右腕から飛ばした無数の影刃で迎え討った。
 その1本が、フェイルノートを構える【鴉】の今宮 真琴(aa0573)へ突き立った。
「――今っ! 当たれぇぇぇっ!」
 体を刃にかきまわされる激痛を、噛み締めたプレミアムチョコバーの甘みで耐え抜いた真琴の矢が、アンゼルムの眉間を弾いた。
 がくりと頭をのけぞらせるアンゼルムだったが、その右腕からはすでに、真琴目がけて新たな100の刃が放たれていた。
 この豪雨に打たれれば、死ぬ。しかし、深い傷を負った真琴は動けない――
「仲間の命は取らせないからっ!」
 同じ【鴉】の同僚である御代 つくし(aa0657)が、真琴の代わりに53の刃を受け止めていた。
 体中から血を噴きながらがくりと膝をつき、倒れ伏すつくし。
「つくしちゃん!」
「私は、大丈夫。それよりも――」
 アンゼルムへと伸びたつくしの人差し指が、力を失い、地に落ちた。
 つくしの必死に報いるため、エージェントたちは攻撃の手にさらなる力を込めた。しかし。それでも。アンゼルムは倒れない。『白刃』は、砕けない。
「命を賭けた人の思いに応えたい」
 藤丘 沙耶(aa2532)が、自らの内に在る英雄シェリルに語りかけた。
「つきあってもらうわよ、シェリル」
 ――たとえ死しても我が心は貴女と共に。
 英雄の返答を受けた沙耶の手の内で砕けるライヴス結晶。
 リンクバーストによる仮初の力を得た彼女がアンゼルムの刃影をすり抜け、露わとなったその青白い胸へ童子切を突き立てた。
 果たして、乾いた音が響き渡り。
 アンゼルムの『唯我の白刃』が砕け落ちた。
 次の瞬間。

「コルト、君――」
「終わりなさい、アンゼルム」

 八咫の指示を受け、コルトが放った荷電粒子がアンゼルムへ押し寄せる。
「ぉおおおおおあああああああ!」
 左腕と、実体なき右腕をかざしてこれを防ぐアンゼルムだが、白刃の守護を失ったその体は閃光に焼かれ、焦された。
「やったか」
 バーストクラッシュによって戦闘不能に陥ったアヤネを抱き起こしながら、ヴィントが拳を握りしめた。
「今です、影の腕を落としましょう!!」
 散開から反転、背の羽をはばたかせた餅がアンゼルムの右腕へトリアイナを繰り出した。
「この前の借りを返しにきたぜ、アンゼルム――!!」
 先の戦いで仲間の撤退を助けるため、重体を負わされた【鶏鳴机】の鹿米夕ヰ(aa0819)が、こちらもアンゼルムの右腕を狙ったが。
 ふたりの攻撃が、共に空振った。
「……僕に触れるな、下郎ども」
 アンゼルムの右腕がゆらめき、大きく撓んだその瞬間。
「が――ぁっ」
 彼の胸を、3射めの荷電粒子が貫いた。
 プラズマが拡散して激しい熱と閃光が巻き起こる。
 コルトが担当していたプラズマカノンのジェネレーターを紅美のそれに連結し、チャージ時間を無理矢理に短縮した果ての一射である。
 この無茶で紅美のプラズマカノンは2台分のジェネレーターごと爆発して弾け飛んだ。4人のエージェントはその爆発の煽りを受け、この戦いから退場した。あとを仲間たちに托して。
 彼らの思いを握り込み、エージェントたちはアンゼルムへと打ちかかった。
 しかし、そのすべての攻撃は彼の右腕を捕えられず、命を断つことはできなかった。
「まだだ、まだ、僕は終わらない――っ!?」
 顔をのけぞらせたアンゼルムの頬をかすめ、雷のごとく伸び出した刃が、エージェントを盾ごと貫き、防具ごと斬り払い、その攻撃ごと叩き潰した。
 先ほどまでの猛攻をさらに凌ぐ超攻だったが、しかし。
「アンゼルムの様子がおかしい」
 構えた盾と共に焼かれた左腕を癒やしながら、【鶏鳴机】の月鏡 由利菜(aa0873)がつぶやいた。
 先ほどのアンゼルムは、自分が放ったはずの刃から顔を反らした。まるで逃げるように、だ。
「腕の影がアンゼルムを喰らおうとしているのでは……?」
 だとすれば。
「みなさん、腕への攻撃は控えてください! 確証はまだありませんが、あの腕と剣の本体は――」
 その由利菜に先んじて、アンゼルムへ向かった者がいた。
「しつこいな――いったいどうすれば、僕は、おまえの顔を、見ずに、すむようになる?」
 右腕をゆらめかせ、顔をしかめるアンゼルム。
 対する御神 恭也(aa0127)は口の端を吊り上げてみせた。
「俺の血のすべてが流れ出せばだ」
「ならばその肉を切り刻み、血のすべてを絞り出す」
 アンゼルムの右腕から太い刃が飛んだが、恭也の大剣はこれをあっさりと弾き返した。
「っ!」
 アンゼルムが目を見開いた。
「――ずっと考えていた。おまえの右腕になぜ攻撃が当たらないのか。その剣がなぜ見えないのか」
 恭也は弾いた刃があったはずの中空ではなく、地に突き立てていた大剣を引き抜いた。
「わかってしまえば簡単なカラクリだ」
 コンユンクシオを騎士槍さながら、腰だめに構え、恭也が突撃する。その狙いはアンゼルムならぬ、地に映し出された剣の影。
 大剣の分厚い切っ先が、細身の剣影、その腹を突く。
 ギャリン!! 甲高い金属音が悲鳴のごとくに鳴り響き、アンゼルムの体が大きく弾かれた。
「おまえの右腕と剣は、おまえの体についているように見えるそれじゃない。本体は」
「地に映る影!」
 由利菜のレーヴァテインが地を斬り裂き、影の右腕の影を払った。
「ぐっ!」
 照明弾によって地面にくっきりと映し出されていた影がうごめいて暴れる。
 アンゼルムが左手で、影の右腕をつかもうとする。その手をすり抜けた実体なき右腕から、闇よりも黒いなにかが噴き出し、この世界ならざるどこかへ流れ落ちていった。
「その命とともに影を断ちます!」
 由利菜と【鶏鳴机】、そしてエージェントたちの攻撃が、アンゼルムへと殺到する。
「僕は僕に、二度の敗北をゆるさない……決して!」
 最大の秘密を暴かれ、『白刃』を砕かれたアンゼルムは、それでもその右腕を自らの一部とするより他なかった。
「右腕よ! 刃よ! 力を! 僕に、力を!!」
 アンゼルムが渾身の力を込めた瞬間。
 その右腕――影が膨れあがった。
「あ、あ、ああ……」
 どくん。アンゼルムの右腕の影が跳ねた。どくん。どくん。どくん、どくん、どくんどくどくどくどくどどどどどどど――
「あああああああ」
 ばぐん! ついに影が爆ぜ、アンゼルムの右腕だったもの、そして右腕の影だったものから無数の触手状の影刃があふれ出した。
 うねる刃はすさまじい速度で地と空を斬り裂きながら、周囲のライヴスを再現なく飲み込んでいく。
「暴走した!? みなさん、ご注意を!」
 盾をかざして仲間をかばいながら、由利菜が高く警告を飛ばした。
「踏みとどまれ! 最大火力で攻撃を集中させろ! 各員、放て!」
 久朗の号令で、影の暴走に目を奪われていたエージェントたちが我に返った。
 影刃をかわし、防ぎ、互いにかばい合いながら、エージェントたちが全力で攻撃。そして。
「これでもう、お互いの顔を見ずにすみそうだな。アンゼルム」
 どこかに万感をにおわせながら、恭也がアンゼルムに語りかける。
「この僕が」
 うねる影が恭也へ押し寄せる。
「おまえの意志が通わない空虚な刃は」
 それを烈風波で弾いた恭也が前転。その回転力に乗せ、アンゼルムへ大剣を振り下ろした。
「俺の心臓には届かない」
 大剣はアンゼルムの右腕の影を根元から断ち切り。
「負ける」
 V字を描いて跳ね上がり、アンゼルムの胴をななめに斬り裂いた。そして。
「終わるのか」
「憶えておけ。貴様の言う人間の小賢しさが貴様を討ったのだと」
 アンゼルムを、終わらせた。
 ――すると。
 斬り落とされた影が、黒から白へとその色を転じ。
 その白がやわらかに拡散していき、ついに香港全域を包み込んだ。
「アンゼルムが、溶けていきます」
 最後までアンゼルムに対し続けてきた征四郎が、杖代わりにしていたインサニアで前を指した。
 地に倒れたアンゼルムの体が、白の内に溶けていく。指先が、つま先が、髪先が消え、腕、脚、胴、そして最後にはその虚ろに開かれた目が白い光に飲み込まれ。
 光の中に、姿を消した。
「【鶏鳴机】の望月です。聞こえますか、【蝶】。ちゃんと、聞こえてます? アンゼルムを討伐しました。ワタシたち……勝ちましたよーっ!!」
 餅の報告がまわりのエージェントたちを……従魔の掃討に成功していた『隊列突破』作戦の参加エージェントたち、そして共に戦った古龍幣のリンカーたちを揺るがせた。
 誰かが笑った。
 誰かが泣いた。
 誰かが声を上げた。
 誰かが歌った。
 誰かが誰かの肩を叩いた。
 誰かがその場に倒れ込んだ。
 誰もがついに掴んだ勝利を噛み締め、そしてふと空を見た。
 星々の輝きを取り戻した夜空の端に、朝焼けの朱が手をかけている。
 長かった夜が明けるのだ。
 エージェントたちはそれぞれの思いを胸に、夜明けのときを待つ。
 アンゼルムの脅威から解き放たれた、香港の朝を。
担当:
電気石八生
監修:
御神楽
文責:
クラウドゲート株式会社